「パリ、嘘つきな恋」
障害を逆手に取ったしゃれたラブコメディに仕上がっているのですが、どうもすっきりしないのは個人的な心情ゆえでしょうか。もう少し作りようがあるところも見えなくもないです。さりげないシーンの隅にどこか障害者を笑っている監督の視点が見え隠れするのだけが気になる。監督はフランク・デュボスク。
スポーツシューズの商社の支社長のジュスランはマラソンが趣味で女好きのプレイボーイ。この日も巧みに女性を物色している。そんな彼に母が亡くなったと連絡が入る。慌てて葬儀に出て、母の遺品を母の自宅で整理していたところへ美しいジュリーという女性がやってくる。しかも、たまたま母の車椅子に座っていたジュスランを見ててっきり障害者だと勘違いしてしまう。
最初は冗談のつもりだったが、次第に障害を装うようになるジュスラン。そんな彼にジュリーは姉で車椅子で移動する障害のあるフロランスを紹介する。美しい姉に惚れてしまったジュスランは、自分が健常者であることを言い出せなくなりズルズルと付き合い始める。
バイオリニストでテニスプレイヤーでもあるフロランスにどんどん惹かれていくジュスランは、ますます真相を話せず、そんな彼の周りの友人たちは、真実を話すよう説得する。
物語は二人のラブロマンスと、周りのドタバタを描いていくのですが、カット割りが実に洒落ているのはフランス映画ならではです。ただ、画面の端々に障害者をコケにした演出が施されているのがどうもいただけない。いらないと思うのですがね。
さらにフロランスはジュリーに、実はジュスランが健常者であることを知っていたと告白。そんなことは知らないジュスランらは真実を告白するドライブへ。そして見出せないままに、フロランスはトラックに引かれそうになりジュスランが助ける。そしてスッと立ったジュスランを見てフロランスは去っていく。
マラソンの日、ジュスランは途中で倒れてしまうがそこにフロランスが駆けつけ車椅子に乗せてゴールイン。映画はそこで終わる。まあハッピーエンド。散りばめられたコミカルなシーンがコメディアンである監督の感性が光るのですが、今ひとつ完全にのめり込めなかった。
「リアム16歳、はじめての学校」
軽いノリで展開するストーリーですが、テンポがいいので、最後まで楽しくみることができます。監督はカイル・ライドアウト。
主人公リアムが母と一緒に高校卒業認定の試験にやってくるシーンから映画が始まる。そして少し遡って本編へ。カナダの教育事情はわからないが、自宅教育という制度が認められているようで、リアムは幼い頃から母に個別授業を受けて今日になっていた。それが引きこもりとかではなく、こういう選択肢があるということだろう。
試験が始まって、すぐに回答を終えたリアムは答案を出して出て行こうとして、義足を直している一人の少女に目を奪われ、すぐに卒業しないことにして回答を消して不合格にする。そして、校長の配慮で1週間だけ、病欠中のマリアという女性の代わりになる。
今まで通ったことのない学校というもので、リアムの青春ストーリーが展開。陽気な母とのやりとりを軽妙なリズムで描きながら、リアムは義足の少女アナスタシアに接近していく。下ネタを笑い飛ばすノリで展開させながら、宇宙の映像をカット挿入し、ちょっと遊び慣れた感じのアナスタシアとの付かず離れずのリアムの毎日が本当に明るい青春ドラマで流れていく。
そして、マリアが死んだという噂で、数ヶ月の学校生活が伸び、アナスタシアとの関係も何気なく接近していくが、アナスタシアは彼氏との仲は裂けることなく、さらにマリアは無事で、学校に戻ってくる。
リアムは高校卒業認定の試験にパスし、アナスタシアへの思いも断ち切れ、憧れのケンブリッジへ。その教室で、マリアと再会して映画は終わる。リアムの成長を巧みに挿入しながらの爽やかな青春ドラマに仕上がっています。楽しい映画でした。
「激怒」
フリッツ・ラング監督の実力を見せつけるような圧倒的な迫力と時事性を見せる傑作。今に通じる見事な緊張感あふれる映画でした。
恋人同士のジョーとキャサリンが、結婚までの資金を貯めるためにひと時離れる所から映画が始まる。そして、お互いお金を貯め、ジョーはキャサリンに会うべく連絡をして約束の場所へ向かうが、途中で保安官に止められる。どうやら女子誘拐事件を追っているらしく呼び止められ、たまたま持っていた好物のピーナッツと、身代金の番号と一致した五ドル札を持っていたため留置される。
容疑者が捕まったことが町中に広まり、住民が留置所に押しかけ、最後には火をつけて燃やす。濡れ衣とわかったジョーの弟トムとチャーリーはキャサリンを慰めながら、兄の無念を晴らそうとする。
そんな時、焼け死んだと思ったジョーがトムたちの前に現れ、リンチ殺人を立証して住民を死刑にすると復讐を誓う。そして裁判が始まる。
次々と立証され、住民は有罪にならんとなったが、ジョーが生きていることを知ったキャサリンはジョーに良心を思い出すように説得。一時は断ったが、判決の日ジョーは法廷にやってきて、全てを許す。
とにかく、緊張感が半端なく見事だし、登場人物の心理描写も見事。これはフリッツ・ラングの真骨頂と言える一本でした。