くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ガラスの城の約束」「ハウス・ジャック・ビルト」

「ガラスの城の約束」

実話を基にした作品で、性格が破綻した両親に育てられた一人の女性の物語なのですが、カメラワークが素晴らしいので、いつの間にか映画というものに引き込まれる不思議な魅力の作品でした。監督はダスティン・ダニエル・クレットン。

 

ニューヨークで暮らすジャネットがフィアンセとともに商談に臨んだレストランで見事な会話で契約してしまう場面から映画は始まる。タクシーで帰る彼女は路地で食べ物を漁る両親の姿に出会うが、無視する。物語はここから幼い日の彼女の両親の物語に遡っていく。

 

父のレックスはガラスの城を建てる夢を持っているが、仕事もすぐにダメになり酒に浸っている。母は売れない画家で家事を顧みず、幼いジャネットは一人でウィンナーを茹でていて体に大火傷を負ってしまう。

 

何かにつけて、夢や理想ばかり語るレックスは、入院したジャネットを連れ出してしまう。レックスの家族は家を持たずに、ホームレスで生活し、子供達を学校へも行かせていなかった。突然暴れ出したりする父親の姿にジャネットら子供達は半ばどうしようもない毎日を送っていた。

 

ジャネットはそんな父を慕っていたが一方で逃れたいと思っていた。そして、自分の力で大学に行き家を出て行くが、家族の元を去る子供達をレックスは執拗に妨害する。その描き方は確かに異常なのだがどこかレックスに哀愁が見えるし、親という存在に温かみも見え隠れする。

 

暴れる両親の姿は見事なハイスピードの手持ちカメラでグイグイと捉えたり、大人のジャネットを丁寧なアングルで捉えたり、この緩急が実に素晴らしい。

 

やがてそんな父も長年の不摂生で、死の床につく。一時は父の元を訪ねるのを拒むジャネットだが、幼い日の思い出を回想する中、いつも父親に見守られていた自分を知る。

 

そして、思うままに正直に生きてきた父の姿を思い起こし、ジャネットはフィアンセの両親との食事で、自分の両親はホームレスですと告白、フィアンセの元を去り父の元へ行く。そして最後の別れをする。

 

時が過ぎ、ジャネットや兄弟が一同に集まり、懐かしい子供時代を語り合う。嫌なことばかりだったはずなのに、父の思い出にみんなが笑顔になっているシーンで映画は終わる。

 

薄っぺらく描けば、どうしようもない父親に翻弄される幼い子供の惨めな人生で終わる物語が実に複雑で温かみのある仕上がりになっている。結局、どこかおかしくても親は子供に良かれと必死になっているだけなのだと思うと、見ている私も微笑んでしまうのです。なんかいい映画でした。

 

「ハウス・ジャック・ビルト」

ラース・フォン・トリアーという監督は、どこか吹っ飛んだ感性があるんでしょうかね。今回の作品も殺人鬼を扱っているものの哲学的な展開から最後は地獄のイメージまで描いていくシュールさにあっけにとられてしまいました。

 

主人公ジャックが車の故障で困っている女を乗せるところから映画は始まる。とにかく自分本位のこの女に2度までもジャッキの修理に乗せてやるジャックは、突然、この女をジャッキで殴り殺す。そしてその死体を冷凍保管庫に入れるが、この後ジャックは次々と殺人を犯しては冷凍庫に運び始める。それも、自分的には芸術的に死体を作り上げている。

 

そして60人もの殺人を犯し、冷凍庫は死体だらけに。さらに数人の人間の首を固定し、一発の銃弾でで撃ち抜く準備をしているところへヴァージという謎の男が現れ、ジャックを地下深く地獄の入り口に案内する。

 

そして最後の居場所を提案されたジャックだが、地上へ戻ることのできる階段を目指すべく壁を履い、力尽きて地獄の底に落ちていってエンディング。

 

死体の山で家を作り、そのまま地獄へ進むジャックのシーンが宗教画のごとくシュール。一体何のメッセージかと見ているうちに映画が終わるが、何ともコメントしづらい映画でした。