くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ジョナサン ふたつの顔の男」「影なき殺人」「無謀な瞬間」「マルリナの明日」

「ジョナサン ふたつの顔の男」

面白い題材なのですが、映画にするには難しかったという感じです。淡々と進む主人公の心の物語が動いてこないので、ラストで沁みてくる感じがなかった。監督はビル・オリバー。

 

12時間ごとに人格が入れ替わる主人公のジョナサンが、目を覚ましところから映画が始まる。午前7時に起き、昨夜の別人格ジョンが録画したビデオを見る。それをお互いに繰り返していた。

 

夜7時に生活が始まるジョンは活動的で、ある時、エレナという女性と交際していることをジョナサンは知る。お互い恋愛はしないというルールがあるので、エレナのことを隠しているジョンに探偵をつけて調べようとするジョナサン。

 

やがて、自らもエレナをつけて、とうとう知り合ってしまう。そして、ジョンを問い詰めると、やがてジョンはエレナと別れるがジョナサンがエレナと付き合うようになる。そして次第にジョンは鬱状態になっていく。それに伴い、朝7時の時間がずれ始める。

 

自分を消して欲しいというジョンの希望を医師を通じてジョナサンに告げるが、ジョンとジョナサンの間には友情以上のものが生まれていた。そして、ジョナサンはある決断をする。それは自分を消してジョンを残すというものだった。

 

こうして夜しか存在しなかったジョンが昼の世界に入って映画は終わるのですが、それなら最初から一人にすればよかったんじゃないかと思うのです。

 

サスペンスのようでもあり、ややホラーのようでもあり、青春ドラマのようでもある。もうちょっと裏のジョンの世界も描写すればよかったかなと思います。エレナも途中で消えてしまうし、あの医師の存在も謎のまま。ちょっと、独りよがりになった感じでしょうか。

 

影なき殺人

ドキュメンタリータッチで描いていく法廷劇の秀作。前半と後半の畳み掛けが見事な作品で、物語の詳細は時代を感じさせるとはいえ映画の構成としては秀逸。監督はエリア・カザン

 

街頭に立つ一人の老神父、突然背後から銃が突きつけられ殺される。逃げる犯人を7人の目撃者が追うがそのまま逃げられる。

 

そして捜査は開始されるが、なかなか犯人の目星は付かず、さらに政治的な問題も絡んでくる中、焦った警察は、ちょっとした手がかりからウォルバーグという復員兵を逮捕する。

 

担当検事となったヘンリーは兼ねてからの人望もあり、知事への推薦も匂わされていた。しかし、起訴を決定する裁判で、起訴留保を提案する。あまりに真犯人とする確証に弱さがあるためだ。

 

クライマックスは、立て板に水を流すように次々と曖昧な点を指摘するヘンリーの弁論、そして無罪となるものの結局犯人は誰か明らかにならず映画は終わる。終盤、いかにもな男が自殺したり、新聞記事に不審な事故死の記事があったりだけで終わるラストは面白い。

エリア・カザンらしい辛辣なところも見え隠れするフィルムノワールの傑作の一本でした。

 

無謀な瞬間

これは素直に面白かった。よく考えれば、かなり雑な話ですが、展開がスピーディで見ていてただ映画を楽しむという世界に入り込むことができます。監督はマックス・オフュルス

 

娘が良くない男と付き合っていることを危惧した母のルシアは、ロサンゼルスまでテッドという男に会いにいく。そして金目当てであることを知り、帰ってきて娘のビーに別れるように言うが娘は聞かず、その夜自宅のボートハウスで密会する。ところがテッドがビーに迫ってきたので怖くなってテッドを殴って逃げる。テッドは殴られてよろめいた拍子に手すりから浜辺に落ちて、たまたまそこにあった錨が突き刺さり死んでしまう。

 

翌朝、ビーの話で浜辺に行ったルシアは死んでいるテッドを見つけ、てっきり娘が殺したと思いボートで沖に運んで捨てる。ところが、沼地に流れた死体が見つかり殺人事件になる。そんな時、ドネリーという男が訪ねてきて、ビーがテッドに送った手紙をネタに金をゆすってくる。

 

ルシアは娘のために金の工面に走り始めるが、ドネリーは次第にルシアに恋心を抱き始め、真っ当に生きるために、ドネリーの相棒でタチの悪い男からルシアを守ろうと動き始める。

 

ところが業を煮やした相棒は直接ルシアのところに脅しに来たので、ドネリーが駆けつけもみ合いの末殺してしまう。そして死体を車に積んでルシアの家を去るが、途中で事故を起こしてしまう。後を追ってきたルシアは車の下敷きになっているドネリーを見つけるがドネリーは全て解決するからと帰らせる。

 

そして、ドネリーが死に際にテッド殺しも自白したという知らせがルシアのもとに届く。折しも出張していた夫から電話が入ってエンディング。

 

筋が一本通ったシンプルな構成ですが、ひたすら楽しませてくれます。結局、ルシアの早とちりから次々と男が不幸になっていった感じですが、娯楽としてはよくできた映画でした。

 

「マルリナの明日」

もうちょっと痛快な映画かと思っていましたが、なかなか普通の良品でした。画面も美しいし、展開もしっかりしているし、個性的でもある面白い作品でした。監督はインドネシアのモーリー・スリヤ。

 

バイクに乗った一人の男がある家にやってくる。どうやらこの男は盗賊で、夫が死んで未亡人になったマルリナのところへ略奪に来たようである。いきなりの、どんな国や?というオープニングから、その仲間たちもやってきて、食事を作れと言われたマルリナは毒を入れて殺してしまう。さらにボスのマルクスにレイプされるも鉈で首を切り落とす。

 

マルリナは切り落とした首を持って自首するためにバスに乗り、乗り合わせた近所の妊婦と警察署へ。

ところが仲間が追ってきて、またマルリナがレイプされかかるので妊婦の女が今度は鉈でその男の首を落とす。そして産気づいて、赤ちゃんを産み落としてエンディング。

 

横長の画面を大きくとった構図と、透き通った景色のカット、丘が広がる広い景色をバスが走る絵作りが美しいし、室内の幾何学的な構図も見事。物語はかなりお国柄が見られるものの、独特の映像世界は見るべき値打ち十分でした。