「金環蝕」
流石に面白いですね。石川達三原作ですが、キャストがそのまま海千山千というのもあり、見事な役作りで展開していく様はまさに魑魅魍魎の世界でした。監督は山本薩夫。
電力会社が九州に建設を決めた巨大ダムを巡って、その入札から汚職に至るまでが白身の緊張感で展開していきます。
金融界の大物石原の存在感は流石に宇野重吉の名演、さらに向こうを貼るのが終始クールフェイスで臨む仲代達也。丁々発止の展開に濃い脇役が彩りを添えていく。
何もかもが結局政府の力で押さえ込まれるラストも、単純にモヤモヤするというよりなるべくしてなったという妙な納得感を感じてしまうリアリティも素晴らしい。
社会派映画とはこうして作るものだという教科書のような作品でした。傑作ですね。
「馬喰一代」
早坂文雄の脚本がいいのか、素直に感動してしまいました。北海道を舞台にしているので、やや必要以上に広大な大地を使った描写が気にならないわけではないですが、今ではこういう素朴な人情ドラマはなくなったので、胸を打たれてしまいました。監督は木村恵吾。
酒と博打が好きな主人公のよねは馬喰で、馬を育てては売って商売をしている。しかしこの日も売上金を博徒と酒ですって家に帰ってくる。赤ん坊のミルクも買えず、女房は泣き崩れる。
間も無くして、女房は病で死んでしまい、今際の際に酒と博打をやめてほしいと言われ、よねはきっぱり酒も博打もやめて息子を育てることに必死になる。
息子は学校の成績が良く、中学に行きたいというが、金がない。女房のへそくりで買った馬を育て、北見競馬で優勝してその金を作ることにする。
よねにはろくという高利貸しの男がいて、何かにつけていがみ合っている。またよねを慕う女もいた。一時は病気になって出場も危ぶまれたよねの馬は北見競馬で優勝、ゴールと共に力尽きて死んでしまう。
映画は、よねの息子が札幌へ旅立つ汽車を見送り終わります。よねを慕う女は、よねの息子の進学の金のためにろくの妾になる決心をするが、最後にろくは、その女をよねと添わせる段取りをするという。
美しい画面作りも見どころの作品で、息子の成長を下駄で表現する演出も、古臭いとはいえ懐かしい。本当に素朴に胸を打たれる映画でした。