くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「私のちいさなお葬式」「読まれなかった小説」

「私のちいさなお葬式」

いい映画だという噂を聞いていたが、期待通り、なかなかの佳作でした。ロシア映画も最近は面白いです。監督はウラジミール・コット。

 

73歳のエレーナが、病院で診察結果を聞いているシーンから映画は始まる。何やら心臓の病気が進んでいて、いつ亡くなってもおかしくないと言われる。余命宣告を受けたも同然のエレーナは、覚悟を決める。帰り道、彼女の教え子に強引に釣った鯉を押し付けられ、とりあえず、冷凍庫の入れる。そして、自分一人でパーティを始めるが、調子に乗って倒れてしまう。担ぎ込まれた病院にやってきたのは都会に住んで5年帰っていない息子のオレクだった。一方冷凍していた鯉は解凍すると生き返り、エレーナは飼うことにする。

 

しかし、すぐに町の戻るオレク。エレーナは、息子に迷惑をかけないようにと自ら葬式の段取りをし始める。死亡診断書を用意し、棺桶も買い、あとは死を待つのみ。近所の友人を誘い、葬式を行い、皆が帰ってから、死のうとベッドの上で息を止めるもできず、雷に撃たれようと外に出るも、自分に落ちず、仕方なく隣人で一番親しいリューダを呼んで殺してもらおうとする。

 

ところが、携帯で、自ら死ぬのでリューダに罪がないなどと録画したり、最後にと酒を飲んだりしているうちに、酔っ払って眠ってしまう。その姿を見たリューダは、オレクにメールして戻ってこいと連絡。慌ててオレクが戻ってみると、エレーナは酔っ払って寝ている。驚いた拍子に車の鍵を鯉に食べられてしまい、帰ることもできなくなる。

 

帰れなくなったオレクな仕方なく母エレーナと食事したり、鯉を獣医のところに連れていったりするうちに、かつての恋人ナターシャと再会したりして、不思議と懐かしい日々が蘇る。そしてある夜、オレクは鯉を池に放してやり、自分も池に飛び込んでみるが浅く、そのまま自宅に帰ると、母は眠るように死んでいた。

彼の若い頃、幼い日々のホームムービーが流れて映画は終わる。

 

コミカルな展開がとってもキュートだし、画面の色づくりもロシアの映画らしい色調で美しい。ラストで鯉を放した池で釣りをする教え子のカットの挿入もうまい。微笑ましいほどに心があったかくなる作品でした。

 

「読まれなかった小説」

クオリティの高いとっても綺麗な映画だし、物語も、これという抑揚はないものの非常に奥の深い仕上がりになっているのですが、いかんせんちょっと長いですね。一家族の物語に主人公の品の出版だけというストーリーの核だけだと、いくら映像が素晴らしくてもしんどかった。監督はジュリ・ビルケ・ジェイラン。

 

主人公シナンが、大学を卒業し、トロイの遺跡のそばの故郷に戻ってくるシーンから映画は始まる。トロイの木馬のカットからのオープニングにまず引き込まれる。シナンは小説の出版を計画しているが、なかなか周りから受け入れられない。父のイドリスは定年前の教師だが、競馬好きで家庭は貧しい。また、農業をし井戸を掘ろうとしていて、帰ってきたシナンに手伝うようにいうも、シナンは全く乗り気がない。

 

シナンは父のような平凡な人生は望まず、イドリスとシナンはすれ違いと諍いばかりを繰り返す。延々と続く長ゼリフと、俯瞰とフィックスを交錯させるカメラワーク、長回しと美しい素朴な村の景色などを織り交ぜた映像演出も素晴らしい。

 

セリフとカメラでリズムを作り出すという演出スタイルで淡々と父と子のドラマが進んでいく。父イドリスは自分勝手に好き放題をし、母に愛想をつかされている。やがて、シナンの本が出版され、母に送ると母は涙を流して喜んでくれる。しかし、本は全然売れない。

 

間も無くしてシナンは兵役に出る。帰ってきたシナンは、母と離れて暮らす父の小屋に入ってみると、そこに父の財布があった。何気なく中を見ると、シナンが本を出版した時の地方新聞の記事が折りたたんで入っていた。

 

シナンは父の農場を訪れ、父と久しぶりに会う。ふと父が居眠りして目を冷ますとシナンがいない。てっきり去ったかと思ったが井戸のところで音がする。いってみると井戸の底で一生懸命掘っているシナンの姿を見つける。映画はここで終わる。

 

前半で、井戸のそばで倒れている父を見つけたシナンが一旦その場を後にするが気を取り直して戻ると、父の顔の周りに蟻がたかっている。てっきり死んでいると思ったら寝ていただけだったりするシーンや、中盤、赤ん坊に蟻がたかっていて繋がれているシーン、ラストで、井戸の綱に首をつっているシナンのショットなど、なにかを比喩するシーンが何度も出てくる。さらに、雪がしんしんと降るシーンや、何気ない村人らのシーンに物語が埋め込まれているストーリー展開は見事である。

かなりの秀作ながら、ただ少し長いというのだけが難点という感じの作品でした。