くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「裁かるるジャンヌ」「ティーンスピリット」「マザーレス・ブルックリン」

裁かるるジャンヌ」(デジタル復元版)

四十年前に見たのですが、ほとんど覚えていない映画史上の傑作を再見。さすがに凄い映画だった。ほとんどがクローズアップで見せていく前半。斜めの構図や極端に偏った配置、さらに突如として天地がひっくり返るカメラなど、映像演出の妙味もさることながら、役者の表情が物語を語っていく展開の迫力、そしてクライマックス、火の中で燃えていくジャンヌの体の恐ろしいほどのリアリティと民衆の蜂起場面との対比も見事。まさにサイレント映画の到達点と呼べる。監督はカール・テオドア・ドライヤー。

 

審問委員の前で尋問されるジャンヌの姿から映画が始まる。執拗な尋問に頑として、自らは神に選ばれたものだと抵抗するジャンヌ。しかし、拷問具を目の前に出され、さらに続く尋問で精魂疲れ果てたジャンヌは思わず、異端者であるという書面にサインしてしまう。

 

一旦は終身刑となり死刑を免れたが、突如思い直したジャンヌは、再度審問委員を呼び、自分は神に選ばれたと告白、火刑が決定される。炎に包まれるジャンヌに市民たちは、聖女が火刑にされたと叫び暴動へ発展、軍隊が鎮圧する中、ジャンヌは炎とともに神に召されておって映画は終わる。

 

今や原版が存在しないが、1985年に可能な限り復元されたバージョンで、それにしても見事な編集と映像、そして演出だと唸ってしまいました。これこそ映画史に残る名作です。

 

ティーンスピリット」

ありきたりの物語とありきたりのカメラワーク、それと肝心の主人公ヴァイオレットとヴラッドとの心の交流の物語が描けていない。さらに、この手の映画で一番大切なステージシーンの演出が平凡すぎて盛り上がらずに終わってしまった。まあ映画としては普通の作品でしたが、エル・ファニングを見に行っただけなのでいいとしましょう。監督はマックス・ミンゲラ

 

野原でiPodで音楽を聴く主人公のヴァイオレットの姿から映画が始まる。テンポ良い曲のオープニングなのに何故か画面が乗ってこない。監督の感性が弱いのでしょうかという始まり。歌手を目指す主人公ヴァイオレットが、バイトでステージで一曲歌う。拍手したのは胡散臭いおっさん一人。

 

帰り道、バスもなくこのおっさんに車で送ってもらう。彼は元オペラ歌手でヴラッドと言った。ヴァイオレットはこのワイト島という小さな町で母と二人暮らしだった。この島に、歌手への登竜門の番組ティーンスピリットの予選がやってくる。ヴァイオレットも申し込むが、保護者がいるということで、母に頼めずヴラッドに頼み参加する。

 

そしてロンドンへの切符を手に入れられる決勝戦で、ヴァイオレットは二位になり敗退。しかし優勝者が失格になり、ヴァイオレットはロンドンの本番の番組への切符を手に入れる。

 

ヴァイオレットはヴラッドとともにロンドンへ。そこで決勝戦で見事優勝して映画は終わるが、プレッシャーから自暴自棄になるヴァイオレットや、決勝戦までに契約を迫る裏のありそうな音楽関係者との話や彼女に寄り添うヴラッドとの心の交流が終盤の見せ場だがそこが全然ダメ。一方のヴァイオレットと母との心の物語も描き切れていない。

 

全体に、リズムに乗り切れない映像が続き、ぶつ切りに見えてしまうのがなんとも残念だし、エル・ファニング演ずるヴァイオレットがやたら暗いばっかりで、ハツラツ感が最後まで見えないので、物語に緩急が生まれないのです。巨匠アンソニー・ミンゲラの息子らしいですが、才能はないなという感じでした。

 

「マザーレス・ブルックリン」

なかなか良質のアメリカンノワールで、ジャズの音楽がレトロな空気を醸し出し、一昔前のノスタルジーの中で繰り広げられるミステリアスなドラマに、懐かしい映画に引き込まれる魅力のある作品でした。ただ、キャラクターを見せるという演出の力不足か、なかなかストーリーの流れがつかみきれない前半部分がしんどかった。監督はエドワード・ノートン

 

探偵業を営むフランクの指示で、ライオネルとその相棒が動いているシーンから映画が始まる。ライオネルは時々思ったことを口走る病気を持っている。フランクが何の取り引きで誰に会おうとしているのかわからないままに、指示通り車で待っていたが、どうも危険な雰囲気になり、ライオネルが必死でフランクを追うが、フランクは銃で撃たれて倒れていた。病院へ連れていくも彼は死んでしまう。

 

ライオネルは、フランクが関わっていた取引を探り始め、ローラという一人の黒人女性にたどり着く。そして彼女の父ビリーが営むジャズバーに連れていかれ、そこで、彼女が地元の開発を請け負うモーゼスら政治家たちの活動をやめさせる運動をしていることを知る。調べるライオネルの周辺には怪しい男たちが現れ、ライオネルは何度か命を狙われるようになる。さらに、ポールという男の存在も見え隠れしてくる。

 

そしてとうとう、ライオネルはフランクの形見の帽子に隠された駅のロッカーの鍵を見つける。そのロッカーにはローラの父はモーゼスである等のスキャンダラスな資料が隠されていた。ライオネルはモーゼスにそのことを告げ、ローラに二度と近づかないことを約束させる。

 

やがて、ライオネルはその資料を新聞社に送り、フランクがライオネルに残した海辺の家に向かう。そこにはローラが待っていた。こうして映画は終わる。

 

ジャズの曲をバックにした絵作りが古き良きアメリカ映画を彷彿とさせいい空気が出ているが、モーゼスら悪人の描き方が少し弱いし、フランクやビリーらが殺される下りも少しインパクトが弱いので、事の真相になる隠された資料の重みが薄くなってしまった感じです。でも、なかなか今時にしてはしっかりできた展開は見応えありました。