くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ミッドサマー」「スキャンダル」(2020年米映画)

「ミッドサマー」

完全なカルトムービー大作でした。エログロナンセンスを研ぎ澄まされた感性で映像表現した作品で、好きな人はここから何かメッセージを感じるのでしょうが、私はなんの感銘も感動も心を動かすものもなかった。ただ主人公ダニーの精神不安定な心の中を具現化しただけにしか見えなかった。グロ描写のストレートさはいくら画面が綺麗でもまともすぎるし、ホラー色の味わいもない。完全なカルトムービーです。監督はアリ・アスター

 

大学生のダニーは、ある時、家族が事故で死んでしまう。そのショックで精神的に不安定になり、心配した恋人のクリスチャンは、友人のペレに誘われ、故郷のスウェーデンで90年に一度開催される夏至祭に友人と行くのにダニーも誘う。

 

美しい大自然と穏やかな村の人々に迎えられ、白夜という特異な環境を楽しみ始めたクリスチャンたちだが、次第にこの共同体の不可思議な生活に違和感を覚え始める。

 

まず、村のそばのそそりたつ岩の上から老人が次々と飛び降り、それを整然と村人たちが見る。差し出される食事も何やら幻覚剤が入っているようで、食べた後奇妙な感覚になる。さらに、この村を出ようとした友人のカップルがいつのまにか行方不明になってしまう。

 

ペレの妹がクリスチャンに好意を持ち、村人たちは彼女とクリスチャンを結ぶべき儀式的なことを始める。この村のことを論文にしたいとクリスチャンとその友人が交渉し、了解してもらうが、一人の友人が村の古木に立小便をした後行方不明となり、村の経典を写真で撮っていた友人も消えてしまう。

 

奇妙なダンスが催され、女たちがダンスし、最後まで踊りきったダニーは女王とされ祭り上げられる。さらに、幻覚剤を飲まされたクリスチャンはペレの妹とSEXする儀式に参加させられる。

 

やがて祭りも終盤、実は殺されていた行方不明の人たち、さらに選ばれた人たちを加えた合計九人が村の外れの三角の建物に運ばれて火をつけて燃やされる。それをじっと見る女王ダニーの姿で映画は終わる。

 

なんなんだ?である。冒頭の老人の飛び降りシーンでは顔を潰すために槌を振り下ろして頭が壊れるところを真正面に見せたり、行方不明の人たちは「羊たちの沈黙」よろしく猟奇的に殺されていたり、クリスチャンのSEX儀式のシーンはひたすらエロだし、実は何もかもが幻覚だったのではないかとさえ思える映像が続く。確かに色彩の鮮やかなセットや屋根の傾いたデザインの建物など美術にも凝ったものが見えるが、だから映画のクオリティが高いかというと疑問。

 

結局、この共同体は、新たなる血を定期的に得ることで近親相姦による種の滅亡を防ぐため90年に一度こんな儀式をしているということらしい。だったら、もうちょっと見せ方もあるだろうにと思う。

たしかにカメラワークや編集はなかなかおもしろいのですが、流石に二度見ようとは思わない映画でした。

 

「スキャンダル」(2020年米映画)

ニコール・キッドマン、シャリーズ・セロン、マーゴット・ロビーとこれだけ曲者女優が揃うとさすがに映画がビシッと引き締まった曲者映画になった。見応えもあるし面白いし、彼女らを絶対敵にしたらあかんとリアルに思う。ただ、事の発端となったグレッチェンが水面下で進めてきた部分が物語の中でセリフでしか説明されなかったのはちょっともったいない。ここを映像で演出していたらもっとワクワク感があったかもしれないが、あくまで主人公はメーガンですと言いたいのだろう。でも面白かった。監督はジェイ・ローチ。

 

トランプが間も無く大統領になろうとする直前の時期、アメリカ巨大ネットワークのFOX社の姿が手際よう映像と編集で説明されるところから映画は始まる。会社の中で蠢くキャリアウーマンの塊のようなキャスターたちの姿から、次第に物語は主演のメーガンの姿へ。

 

会社をワンマンで牛耳るロジャーは、仕事の腕もずば抜けているが、採用する女性へのセクハラ行為も露骨である。それは彼女たちを世に出すための手腕の一つでもあるが、一方で自ら手にした権力のなせる欲望でもある。

 

ところが、彼の申し出を拒否する事で、トップの座を追われた一人のキャスターグレッチェンは周到な準備を積み重ねロジャーを訴える準備を進め、ついに告発する。そんな頃、トップを目指すケイラは巧みにロジャーに取り入ったものの、そのセクハラ行為を目の当たりにする。

 

レッチェンが訴えた事で、FOX社のキャスターたちの声がどんどん出てくるかと思っていたが、なかなか表になって来ない。一方、トップに君臨し、トランプ批判など露骨な意見で敵も多いメーガンは、グレッチェンの訴えの核になる人物とされていたが沈黙を守っていた。

 

それは家庭のためだと納得していたものに、周囲の姿を見るにつけ、声なき声が集まってくる。そして等々、メーガンもロジャーを訴え、それに伴ってキャスターたちの声も上がる。もちろんロジャーに恩を感じ擁護する声もあるものの、セクハラ発言を録音して準備していたグレッチェンの計画に、FOX社の前会長マードックもロジャーを切ることを決意、解雇する。

 

ケイラも悶々としていた自らの気持ちに整理をつけ、FOX社を後にするかの行為を見せて映画は終わる。さすがに迫力満点のドラマに仕上がっていた。見ごたえも十分、男側の描き方も完全に悪として描写していない公平性もある程度評価できる秀作でした。