エリック・ロメール追悼「満月の夜」
青と赤そして、時々黄色を意図的に画面に配置し、まるでモダンアートのような映像世界を構築、そしてその中で展開する一人の女性の奔放的な自由恋愛の世界、さらに、その恋愛に翻弄される三人の男の物語です。
そんな物語の中に、時に現代的な若者のごとく、また時として古風な男性の性が見え隠れします。
主人公ルイーズの今の彼氏レミとの部屋は幾何学的なアートを壁に飾ったり、調度品を配置したりした現代的な世界。一方で妻子ある男性オクターヴの部屋は具象画で飾られ、現実味のある部屋になっています。さらに、ワイルドな若者バスチアンには一夜をともにする場所のみで特に部屋の中を映し出そうとしていません。
クライマックス、レミの元へ戻らんと、ひとときの早朝のカフェに入りますが、その中は木製の暖かい壁で囲まれています。あたかも、部屋の演出がそして着飾る服に赤や青を使った演出が主人公や、周りの男性たちの心を映し出すかのような映像効果をもたらし、最後に立ち寄るカフェの木のあたたかみが、ルイーズの心の状態を見事にスクリーンに再現していきます。
しかし、勢い込んで戻った部屋で彼女はレミから別れ話を聞き、わらをもつかむ思いでオクターヴの元へいそいそ出かけていく。このエンディングが何とも切ないですね。
心の変化する様子が、自然と色の変化や調度品、服装、などで描かれていくというモダンアートに彩られたようなストーリー展開はまさにフランス映画であり、これがエリック・ロメールの魅力なのでしょうか。いい映画でした。
もう一本は「ニューヨーク、アイラブユー」
世界から十人の個性的な監督を集めて、ニューヨークを舞台に様々なラブストーリーを描いた群像劇。
オムニバス映画ではないので、完全に一つ一つが独立して終わりません。それぞれの物語がかいつまんだように映し出され、それをタクシーやカフェからとらえる女性カメラマンのハンディムービーがつないでいきます。
こうした作品は、一本にまとめる手腕がもっとも難しいし、それぞれの監督がそれぞれ秀逸なストーリーを描くので、各シーンはすばらしくても一本の作品としてみたときに、雑然とした寄せ集めになりかねない。
残念ながら、この映画はそういう結果を伴ってしまったのが何とも残念。
演じられているいくつかのエピソードの中には、記憶に残しておきたいストーリーも何編かあります。
シェープール・カブール監督のオペラ歌手の物語や、画家と中国人女性のはかないラブストーリー、ナタリー・ポートマン監督のマニーと少女の物語、など感動的なエピソードもあるのですが、こうしたそれぞれがそれぞれのままで終わってしまう。
女性カメラマンによるとりまとめの演出がされているということは一本の作品につむぐという意図が明らかに伺えるのですが、それは成功していないようですね。
でも、みていて、美しいニューヨークの叙情が見事にでているし、タクシーや摩天楼、夜景、人々の姿が生き生きとしているのはそれぞれの監督がそれなりの思いでニューヨークを愛して演出した結果だと思います。その点で、いい映画というべきではないでしょうか