くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「三等重役」「いらっしゃいませ」「神阪四郎の犯罪」

三等重役

「三等重役」
森繁久彌追悼特集上映で三本を見る。
この作品は非常に小気味よい展開と、次々と切り替わっていく場面のおもしろさで最後まで飽きさせない秀作でした。脚本に山本嘉次郎井手俊郎 によるためかぽんぽんとテンポよく切り替わるシーンの連続がとにかく楽しいのです。

物語の舞台である南海産業の姿が説明されて、時の社長の家の朝刊に前社長が舞い戻ってくるという記事を見つけて愕然、社長の座を譲らざるを得なくなるかと思いきやなんと前社長が脳溢血で倒れたために今の地位が安泰となったところから物語がスタート。

そこへ次々と起こるさりげないながらも日常生活の中になにがしかの波風となる事件の数々。一つ終わればまた次ぎそしてまた次と繰り返される展開に人事課長役の森繁久弥の名演技がひかり、社長や周りの人間模様がなんともいえない当時の日本の姿人々の考え方を反映していく様が秀逸。

小津安二郎などが描く日常ドラマとはちょっと趣の違う個性が作品の中できらきらと光るから楽しいのです。


「いらっしゃいませ」
とある東京の大デパートを舞台に、そこへ絵描きから転向した主人公(森繁久彌)がもちまえの調子良さで、周りの女性たちに気に入られ、それぞれの将来を頼まれて結局、決心が付かずに元の鞘に戻る様子をコミカルに描いた作品。

「三等重役」同様、高度経済成長当時の日本のサラリーマンの姿がさりげない演出で描かれて忌ますが、こちらはちょっと展開が散漫で、まとまりが今ひとつ。それでも一つ一つのエピソードのおもしろさ、そしてそれらが最後に絡み合って、結局主人公から離れていく女性たちを見送る哀愁感が不思議なムードで漂ってきます。


「神阪四郎の犯罪」
一転してこの作品はシリアス物になりました。しかもなかなか見応えのある法廷劇です。

映画が始まると主人公神阪四郎(森繁久彌)と千代と二人で抱き合っている。今にも千代は睡眠薬か何かで死なんとしている。そして神阪も意識がもうろうとなり、あわてて廊下へ出るところから物語が始まる。
会社の金を横領し訴えられた主人公は法廷で4人の証人たちにそれぞれの立場で神阪の人間を証言される。しかしそれはそれぞれの証人にとっての都合のよい物語ばかりで、真相はわからない。最後に読み上げられた故千代の日記にさえも妄想が含まれているかのようでもある。

最後にすべての人たちの人間性を証言する神阪四郎の証言の中にも果たして真実かどうかは明らかにならない。

そんな展開で最後まで描くシリアスな人間ドラマは「羅生門」で描かれた「藪の中」のごとしである。しかも森繁久彌の朗々と語るクライマックスの陳述はこの作品の主題を明確に表に映し出し、見事に作品を締めくくる。

二転三転する証言者による神阪四郎の人間性、さらに最後の最後ですべてが虚構であるかのような神阪四郎本人の陳述の迫力が、エンターテインメント性とドラマ性を見事に融合させて、深みのある物語に仕上がっている。なかなか見応えのある秀作でした