くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「崖っぷちの男」「フェイシズ(ジョン・カサベテス)」「こ

崖っぷちの男

崖っぷちの男
題名は実にダサいのであるが、とにかく最高におもしろいサスペンス映画でした。とにかく主人公の周りに登場するわき役が実に見事。主人公ニックに呼ばれて駆けつける女刑事マーサの相棒の刑事ジャック、一見平凡なのだが常にマーサの味方になる。さらに野次馬の中で扇動する男。最後の最後でニックを助けるという重要な役割まではついでの演技に終始させる演出は最高。

物語は主人公ニックが宣伝フィルムのままにホテルの屋上へでていって今にも自殺する体をみせるところをビルを俯瞰でとらえるショットを挟みながらオープニング。そして物語は一ヶ月前、ニックが刑務所に入っている。元警官でダイヤを盗んだ疑いで入っているが無実である。

そこへ父が危篤の知らせ。そして葬式の場所で弟と殴り合いになりそのまま脱走へ。どう考えても仕組まれたのはわかるのだがあれよあれよと先に進む物語に引き込まれていく。

そして、時間は現在へ。ニックが人々や警官の目を引いているうちに向かいのビルにあるダイヤ王ディヴィッドのビルからニックの弟ジョーイらがニックが盗んだと疑われたダイヤ本体をもう一度正式に盗む。さらに最後にわかるがニックが入ったホテルのボーイは冒頭で死んだだとされた父であったりするどんでん返しも仕組まれている。

ちらとうつるわき役さえも効果的に物語におもしろさを与えていく脚本が実にうまく、テレビキャスターのスージーさえもがニックの真相暴きの手助けに絡んでくるクライマックスもまた秀逸。

結局、ニックの相棒だったマイクも片棒を担がされていて、内部調査も行われていたが結局確証のないまま、大富豪で実力者のダイヤ王デイヴィッドの力で隠蔽されていたのが最後に明らかになっていく下りはとにかく胸がすくおもしろさである。

ニックが窓の外にたつという緊張感、弟ジョーイが恋人アンジーと警備システムをかいくぐり、「ミッション。インポッシブル」並に進入して金庫に迫る展開も見事。さらに本当の悪徳警官が誰かという謎解きも絡んでくる。そしてそれぞれの物語の周りのわき役が引き立てていく作りになってそれもまた物語が薄っぺらくなるのを防いでくれる。

全く、娯楽映画の常道を丁寧に練り込んだ最高に楽しめるエンターテインメントでした。
ラストで居酒屋で打ち上げをするニックたちの前で、ホテルのボーイだった男が「父親です」となのるエンディングはもう拍手ものでした。


「フェイシズ」(ジョン・カサベテス版)
関係が破綻した夫婦の三十六時間を描くという解説のごとく非常にシンプルな物語であり、複雑に入り組んだ人間関係とかドラマは全くない。しかしジョン・カサベテスの名前を不同にしただけのことはあって、前衛的とさえいえる映像が一気に彷彿し、スクリーンをあれよあれよとかけ巡っていく。それだけでただ者ではないといえる作品である。

モノクロームの画面に一人の男リチャードが階段を降りてくるところから映画が始まる。そして、スクリーンに映像が映し出されタイトル。

この降りてきた男リチャードらが娼婦の店でパーティでバカ騒ぎをし、気に入った女たち男と遊びほうける様子がまさに顔、顔をとらえながら描いていく。そこに筋の通った物語はないが、といってなにも無駄にだらだらととらえる演出でもない。

演技をしているのかいないのかわからないドキュメントタッチの映像が描き出す退廃的なムードはアメリカ的な「81/2」のごとくである。

そして、リチャードが散々ジーニーとふざけあい一夜を過ごして楽しんだ後に帰ってみると妻マリアはディスコで知り合った若い男チェットと不倫していてその男が窓から逃げていく。リチャードは階段で妻とたばこを吸って、それぞれ上と下に消えていって破綻を思わせるショットでエンドタイトル。

男がジーニーとふざける映像とマリアがチェットと戯れるシーンが後半のメインになって描かれていくが、それぞれこれといって濃厚なラブシーンをするわけでもない。しかし、本来の夫、妻とはなれてのふざけであることがいかにも軽妙に語られる様はまるで有閑階級の暇つぶしのごとくである。

決して単純な娯楽映画ではないが、必見の独創的映像で語る作品という感じでした。



「こわれゆく女」
ジョン・カサベテス監督の真骨頂ともいうべきものすごい映画に出会いました。2時間27分間全編、一触即発の緊張感が全く途切れない。主人公であるジーナ・ローランズ扮するメイベルの存在ももちろんですが、夫であるピーター・フォーク扮するニックさえもがふつうでないようにぎすぎすしている。その上、それぞれの両親さえもぎりぎりの精神状態を必死で我慢しているような緊迫感が見え隠れする。ただひたすら今にも壊れそうな張りつめた映像が最後の最後エンドタイトルになるまで続くのです。これはもう映像としての一つの完成型と呼ばざるを得ません。

物語は水道工事か土方工事の仕事をするニックが仕事を終えて戻るところから始まる。これからゆっくり家に帰ろうとしていたところへ次の臨時の仕事が入り、せっかく妻のメイベルと過ごすはずだった約束が反故にされる。しかも一方のメイベルも子供たちを母親に預けて準備万端だっただけにニックの連絡に気のいい返事をしたものの、いらいらは止まらず一人バーへ行って男をナンパする。しかし、その男との翌朝、どこかちぐはぐな返事をするメイベルに不気味なものを感じた男はそそくさと帰り、そこへ同僚を連れてニックが帰ってくる。

妻の気持ちも考えないニックの行動もみている私たちには不快感だが、当然メイベルも感情を露わにする。どうやら彼女は精神不安定な状態らしい。その不安定な状態をジーナ・ローランズは見事に演じていくのだ。

圧巻はスペイン人の子供を預かることになったものの、異常な歓待ぶりを見せスペイン人に不快がられたところへニックが帰ってきてメイベルの情緒不安定が最高潮になるところである。主治医を呼び、ニックの母も駆けつけるが、ふつうでない興奮状態のメイベルはそのまま病院へ行くことになる。このメイベルの姿の演技の恐ろしいほどの見事さには頭が下がった。全くジーナ・ローランズという人はものすごい女優である。

さて半年後、直ったということでメイベルが帰ってくる。例によって大勢の客を集めてニックだが、両親に反対されみんな帰してしまう。そこへメイベルが帰ってくるが、どこかニックの行動が横暴で、実はこの男がすべての原因ではないかとさえ思えてしまうのである。その上、ニックやメイベルの両親さえもどこか不気味な様子もあるために、いったい本当にメイベルだけが不安定なのかと思えてしまう。

そして、最後は子供たちを寝かせ、ニックとメイベルはベッドインするかと思わせるシーンでエンディングだが、この最後に至ってもまだ何かあるような予感が残っている。

クローズアップを多用したカメラアングルと、やや不安定に振り回すワーキングで緊張感を途切れさせない映像演習もさることながら、主演のジーナ・ローランズのみならずピーター・フォークの視線の中にも並々ならぬ緊迫感が漂い、作品全体がまるで綱渡りをする状態のようなゾクゾクする緊張が覆っている。全くものすごい映画だった。