くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「充たされた生活」「海は生きている」「初恋・地獄篇」

kurawan2015-06-15

「充たされた生活」
安保闘争に揺れる日本を舞台に、一人の女じゅん子の結婚と恋に揺れる人間ドラマを描いていく。その映像は、映画というセオリーを取っ払ったように、自由に描かれていく。ここに羽仁進の天才と言われるゆえんがあるのでしょうか。

一人の女じゅん子がウィンドウショッピングをしている。彼女の独り言のようなせりふがかぶり、ドキュメンタリーのようなタッチでカメラは彼女を追いかけていく。雑踏や町の人々の日常の騒音が、普通に物語の効果音となってストーリーを飾るし、画面に俳優の顔や口元などが写っていなくても、画面からはずれていても、向こうを向いていてもせりふが語られていく演出は、独創的と呼べる。

じゅん子は、高岡と言う夫の元を去り、かつて所属した白鳥座という劇団に戻る。そこの演出家石黒と、次第に親しくなり、一方で安保闘争にはまりこんでいく劇団の姿がかぶってくる。

デモの中、けがをした石黒を見舞ったじゅん子は、この男を次の伴侶と決めて映画が終わる。途中に、アパートの部屋の隣の若者や、友人の浮気、言い寄る男たちをさりげなくかわしながら、淡々と、それでいて芯を持って生きる一人の女の姿は、独特のカメラ演出で、見事なリアリティで時代を映しながら、作品が完成するのである。

確かに、その存在感は一歩抜きんでたオリジナリティだが、個人的にはあまり好みのタイプではない監督かもしれません。


「海は生きている」
本来、ドキュメンタリーはみないのですが、日本復帰前の琉球の海をとらえたということでちょっと興味があり見てみました

あんこうのイラストが崩れてタイトル。まだアメリカの統治下にあった沖縄の海の姿が描かれていく。なぜか、本土の水族館の研究員に東野英次郎がでてきて、演技をするあたりが、ドキュメンタリーなの?といえなくもないが、これもまた手法だととらえればいいかと。

命の誕生の物語を語って映画が終わります。美しい一本でした。


「初恋・地獄篇」
ATG映画の口火を切った傑作で、深層心理と現実を交錯させたシュールな演出と映像が、詩的なムードを醸しだし、不安定な揺れる少年少女の初恋の一瞬を描き出す。久しぶりにATG映画の空気を感じました。

主人公シュンとナナミがラブホテルに向かう場面から映画が始まります。まっすぐ続く道のような映像、そして部屋に入った二人ですが、どこかぎこちなく、結局、なすことなく、この日は別れます。

孤児院で育ったシュンは、彫金士の家でお育てられますが、その彫金士の男は幼児趣味、一方ナナミはヌードモデルをしていて、怪しげな髭の男に毎回指名される売れっ子。

二人の、どこか危険な性の倒錯場面を織り交ぜながら、時代背景を当時のヒット曲で彩り、夢のような幻想的な映像を繰り返して描くストーリーは、独特の世界である。

脚本に寺山修司が参加し、めくるめくようなファンタジックなストーリーに仕上げていくし、羽仁進のナレーション的なせりふの挿入、素人俳優を起用した素朴な画面が、独特の甘く切ない初恋の物語を紡いでいく。

ラスト、もう一度あのホテルで試そうと約束するが、ホテルで待つナナミに、目の前で交通事故で死ぬシュンのカットでエンディング。

おそらく当時の若者ははまったであろう、ATGの傑作らしい一本でした。