くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「笑いの大学」

久しぶりに傑作を見ました。
三谷幸喜脚本、星譲監督、役所広司稲垣吾郎主演の作品です。

物語の原案は三谷氏のラジオ劇、さらに舞台劇に発展し大ヒット、三谷氏の作品の中でも傑作の声が高く、映画化が難しい内容との評判でした。
ところが、見事。ほとんど役所広司稲垣吾郎の二人芝居のように展開するにもかかわらず、いつの間にかその時代背景や二人の心の変化、時の流れ、そしてクライマックスの結びへと観客を飽きさせず、引き込んでいくのです。

最初は役所広司の演技力のたまものかと思われたのですが、いやいや、誰彼の演技力云々ではなく、全体が一つにまとまって見せてくれるのです。
たんなる、喜劇台本の検閲の可否を三谷流のコメディタッチで見せていくのではなく、映画という時間を超越させ交錯させていく力のある不思議な世界を使って、一本の時代ドラマに仕上げていくのです。

少しずつ台本が完成して行くにつれ、その存在感が大きくなってくる検閲官役所広司。そして、それにつれて、一人の喜劇作家としての強い信念を見せつけてくる稲垣吾郎の劇作家。見事なコラボレーション。これぞ映画。
稲垣が劇場の前を通り検閲所へ向かうたびに表現される厳しい時代の流れ。
笑いの中に少しずつ戦争の黒雲を広げていく演出のうまさ。見事。

たとえは違うが、黒澤明の「七人の侍」。この映画は徹底的な娯楽作品でありながら、一本の作品の中に農民と侍の社会性をしっかりと埋め込んだからこそあれほどの傑作となり得たのです。
これと同じ厚みが今回の「笑いの大学」にはあります。

ラストシーン、稲垣が自分に来た召集令状役所広司に見せるクライマックス。それでなくてもしっかりと観客の心をとらえていた物語に再度私たちは引き込まれ、わずか数分のクライマックスに一つのドラマをもう一度体験し、感動し、涙してしまうのです。
決して、単なるコミカルなドラマではない分厚い社会ドラマ。その厚みが見終わった私たちにジンと来る感動をもたらしてくれた良い映画でした。