くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「阿修羅城の瞳」

阿修羅城の瞳

人気の舞台の待望の映画化ということですが、その宣伝時の派手なCG映像に日本的な魅力がどこかに感じられていたので、やや期待していました。

第一印象。久しぶりに日本映画の様式美の世界を見ました。かつて五社英雄監督が得意とした歌舞伎的な様式美の世界。花びらが舞い、まるで蝶が舞うような殺陣が繰り出される時代劇、その魅力は大胆なカメラアングルとその動きの中でまさしく伝統芸術である歌舞伎をスクリーンに見るような錯覚さえ覚えました。

椿の花びらが舞い、大げさに飛び跳ねながら回る殺陣のシーンはすばらしい。何かにつけ天から花びらが舞い落ちてきて、極彩色の衣装を身にまとった主人公が舞う。背景にはこれはおそらくCGであろうが、異常なまでに大きくサイケデリックな月や雲、そして不気味な空、まさしく舞台芸術の世界です。この美学を今、演出に持ち出してきた滝田洋二郎監督に敬意を表したいと思います。

しかももう一つの驚きは市川染五郎の殺陣シーン。着物の裾がめくれ、着物下が見え隠れするほど足を開き飛び回る姿はかつての板東妻三郎の豪快な殺陣と同じくするもので、歌舞伎の中での殺陣に同じくする物なのである。
久しく、殺陣シーンにこの手の豪快さが失われていた。それは着物下が見えることがみっともないという意識があったのか、でてくる侍、誰もが本当におとなしく剣を振り回す時代劇が横行していたのである。
かつて、あの、流麗な殺陣で知られる市川右太右衛門御大でさえも、あの派手な衣装ながら立ち回りは裾がはだけていたのである。

しかし、ついにその禁断は久しぶりに破られ、豪快な殺陣の中、華麗な伝奇物語が展開する「阿修羅城の瞳」。CGがその伝統芸術を演出するために効果的に使用され、その特殊映像が何の違和感もなく画面を構成しながらのストーリー展開。見応え十分である。

クライマックスの市川染五郎が阿修羅城に乗り込んで、天地左右が全くわからない迷路のような階段と通路の中での殺陣シーンは圧巻。ある意味、シミュレーションゲームを見ているようでもあるが、カメラが縦横無尽に回転して染五郎を追う場面はおそらく映画作品としての「阿修羅城の瞳」のサイダの見せ場ではないであろうか。

一つの時代劇の形として、これからの日本映画の形としても、十分にその役割を果たした秀作であったと思います。

ただ、難をいうと、宮沢りえが良くない。「たそがれ静兵衛」で見せた静かな柄に芯の通った演技はどこへ行ってしまったのか。あまりにも軽々しいアクションに、身の入らないセリフの数々は彼女の才能を生かせなかった監督の力量なのか、彼女本人がこの手のアクション映画に不向きなのか、いずれにせよ、この映画のストーリーの根幹である阿修羅役にはあまりにも力不足であったことは一言付け加えたいと思います