くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「暗夜行路」「雪国」

豊田四郎生誕100周年記念として豊田監督の名作20本の特集上映に出かけました。
本日最初は
暗夜行路
「暗夜行路」
ご存じのように志賀直哉の傑作小説の映画化である。140分という長尺作品ながらその長さを全然感じさせない。
どこが素晴らしいのか、何が観客を最後まで引きつけるのかさっぱりわからないのに飽きさせない演出力はまさに豊田四郎監督の力量なのでしょうか。

物語は自分の祖父と母との間に生まれた時任謙作(池辺良)がその妻をめとる課程とその後の生活の中で自分の出生に悩み、妻の過ちに悩みながらもやがて妻の理解を得、自らも立ち直っていく課程を描いている。
物語の時代背景は現代とはまるで違う。しかし、名だたる文学の名作が今なお読者を魅了してやまないように、この映画化作品にも全く時代の変化を感じさせない魅力があるのである。

淡々と描かれる物語の中に大きな起伏も無いというのになぜ最後まで画面から目を離せないのであろうか。
主人公、謙作の人生も妻、直子(山本冨士子)の心の変化や葛藤も特に共感を覚えるものでも無いながらその奥に誰でもがもつ微妙な苦しみや哀しみ、悩みが見事に表現されているのである。

正直なところ、この作品がなぜ見た後にこれほど引きつけられたのかを具体的に文章にすることはできない。それが豊田四郎監督の作り出す絶妙な映画のリズムなのかも知れないが、それも語れないと言うのはまだまだ私の鑑識眼足らずと言わざるを得ないと思いました。感服です
雪国
「雪国」
トンネルを抜けると・・・という書き出しで始まる川端康成の名作中の名作。しかし、この映画作品にこの名書き出しはでてきません。すべてを映像で表現してみましょうと言う意気込みがその冒頭部分からにじみ出てきます。

いい映画を見たという充実感。本当の名作に久しぶりに出会ったという満足感。それがこの映画を見た後の最初の感想でした。

映像表現のすばらしさ、一つ一つの画面の見事さはぬきんでていると言っていいでしょう。
雪見障子の向こうに花火が上がります。その異常に大きな花火のむこうには雪山がそびえています。
鏡台のおおいをあげるとそこに雪景色が映ります。その雪景色の中にすっとフレームインしてくる駒子(岸恵子)。
雪見障子を挟んで映る駒子、その彼女とこちらから話しかける島村(池辺良)。
カメラが二階の障子の外から三味線を弾く駒子のすがたをうつしだす場面。
雪国のかまくらの描写。駅で物売りをする老人の姿。どれもが雪国の美しさを映像で描ききったという名シーンの数々。

豊田四郎監督の映像表現に応えるかのように素晴らしい熱演をする岸恵子
とにかくかわいらしい。まさしく川端康成作品に登場するかわいらしい女性を見事に演じきっているのです。
一つ一つのセリフの言い回し。語尾のイントネーション。仕草や笑顔、どれをとっても超一流の演技を見せる岸恵子。全く、見ている私たちも思わず惚れ込んでしまうほどのかわいらしさを画面に見せてくれるのです。

書き出すときりがなく、褒め出すときりがない、本当に日本映画の名作を見たという感動にいま浸っています。この作品を見たら、いまの名だたる監督の作品など足元にも及ばないでしょう。そして、この作品が公開された1957年頃にはこうした作品が量産されていたのですからすごいですよね。

ラストシーン、雪の中、むこうへ歩いていく駒子の姿は名シーンと言えるでしょう。