くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「甘い汗」「波影」「猫と庄造と二人のをんな」

豊田四郎生誕100周年特集で再度映画館に通った。今回は3作品を見る
甘い汗甘い汗
京マチ子の恐ろしいまでの熱演がスクリーンのこちらまで伝わってくる迫力満点の作品であった。
若い頃から、大家族を支えるために自らの体を粉にして働き続けた主人公の梅子(京マチ子)。
しかし、その行き着いた先は家族から疎まれ、娘にも最後には理解されない結果を生んでいく。
ラストシーン、たまりかねた竹子(桑野みゆき )を追って、梅子が財布からわしづかみにしたお金を差し出すシーンは思わず身を乗り出してしまうほどに切なく悲しい物語の最後であった。

本当に豊田四郎監督の映像づくりのすばらしさは言葉に表せないほどである。
構図の見事さ、ワンシーンワンシーンの所々にさりげなく置かれた小道具が画面で見事に物語を語ってくれるのである。

この「甘い汗」でも、それとなく転がるからのビール瓶や風に揺れるカーテンの動きがまるで生き物のように作品を生き生きさせるのである。
特にこの「甘い汗」では非常に長いシーンが何度もでてくる。しかもワンカットなのである。キャストの芸の見せ所といおうか、巧みに人物を入れ替えながら次々とセリフが飛び出し、各人がめいめい演技をしていく。これだけでも一級品である。かなりの演技力を持つ俳優達がそろわないとこんなシーンは完成しないであろう。もちろん豊田四郎監督の力量に追うところもかなりをしめるのであるが、圧巻といえるほどのシーンが何度もでてくるのである。

とにかく、スタッフとキャストが映像の中でぶつかり合う素晴らしい作品であった。

波影波影
桟橋が遠景に移り、細長いワイドスコープの画面を徹底的に生かした見事な映像から物語が恥じます。
雨でかすむ画面の中に語り部である世津子(大空真弓)の姿が浮かび上がる。
見事な冒頭シーンである。
ここから物語は回想形式でこの物語の主人公雛千代(若尾文子)のあまりにも切ない物語が始まるのである。

上述の「甘い汗」同様、こちらも娼家(つまり売春宿)が舞台となる。
自ら志願してこの娼家にやってきた雛千代、家に残った家族を養うために実を売ってお金を作ろうとして来たものの、持ち前の気だての良さと、頭の回転の良さで娼家の主人からももちろんお客さんからも同僚からもそしてその家の娘世津子(後の大空真弓)からも慕われることになる。

この作品でも細長い画面を十分に意識した画面づくりが見事である。
また、豊田四郎監督の好んだものか、カメラがゆっくりと横のパンしながら被写体を捕らえるシーンが時折でてくる。その動きが効果的であるために作品にリズムを与えます。

落ち着いた画面でありながらそこの激しい主人公の生き様と周りの人たちの心の葛藤が力強い迫力で観客を魅了するのである。
人を嫌うことを知らず、何でも良いから小さな生きる喜びを見つけながら、懸命にその日その日を生き続ける雛千代の姿はあまりにも健気なのである。

こんな女性が身近にいたら惹かれずには置かないであろう。そして自分の人生観を変えざるを得ないだろう。
まさに若尾文子の迫真の演技がぐいぐいとそして切々とあの時代の悲哀を表現して見でてくれます。すばらしい。
何とも言われない熱いものを胸に残してくれる作品でした

猫と庄造と二人のをんな猫と庄造と二人のをんな
これこそ豊田四郎映画といわれるかも知れない人情喜劇。豊田四郎監督の「夫婦善哉」と並ぶ傑作である
前二作品とうってかわって人間風刺を交えた喜劇タッチの作品である。そこには健気な女性も力強い女性もでてこず、どこかこざかしい、どこかそろばんずくの女達が所狭しと登場する。

そんな女達に翻弄されるのが森重久弥演ずる庄造である。
物語は庄造のいまの妻品子(山田五十鈴)が自ら家を飛び出して離婚するところから始まる。
とにかく恐ろしい形相で意を決してでていく品子の姿はただもう唖然とする庄造を後目に、とにかく威勢がいいのである。

そして、舞台は一変して、この離婚劇は庄造の母おりん(浪速千栄子)の策略であったことがあかされ、庄造があれよあれよと思っているうちに福子(香川京子)と結婚することになってしまう。
実は以前から福子と親しい関係であった庄造はこれ幸いと結婚。

一方、そんな庄造の噂を聞いた品子は、自らのプライドを賭けて庄造を取り戻そうとするのである。

こんな、ドタバタしたドラマの背後に冷静に様子を見つめる庄造の愛猫リリィ。この猫を所々に利用して、人間達の愚かさを見事に描き出すのである。
しかし、そんな物語の展開のみならずここにも豊田四郎の映像の手腕が炸裂します。

庄造の雑貨屋の商品の影から見える庄造の自転車、向こうに見える海、一つ一つの丁寧な意味が込められているかのような映像が次々と登場。
そして、この作品にはクローズアップシーンが一カ所だけ登場する。庄造がラストで堪忍袋のを尾が切れるシーンである。

一匹の猫を通じて描かれる物語はまさしく人間風刺になっている。その風刺を豊田監督の見事な演出と画面によって、単なる風刺劇に終わらず芸術作品として完成しているのである。

全く、本日の3本もどれm2時間以上あるにもかかわらず、もう一本みたい、もう一本みたいと思ってしまう。全く素晴らしい作品群であった