くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「稲妻」「晩菊」「噂の娘」

稲妻『稲妻』
1952/大映/白黒/87分
原作:林芙美子 脚色:田中澄江 撮影:峰重義 美術:仲美喜雄 音楽:斎藤一郎  出演:出演:高峰秀子、三浦光子、村田知英子、香川京子根上淳浦辺粂子中北千枝子、植村謙二郎  

長男三姉妹全て父親の違う一家。もつれた血縁がからみ合った惨めな境遇を抜け出そうとする三女を中心に描く下町人間模様。成瀬自身「代表作は『浮雲』でなく『稲妻』」と語る傑作のひとつ。◆キネマ旬報ベストテン2位 ◆ブルーリボン賞作品賞・監督賞

晩菊『晩菊』
1954/東宝/白黒/111分
原作:林芙美子 脚本:田中澄江井手俊郎 撮影:玉井正夫 美術:中古智 音楽:斎藤一郎 出演:杉村春子望月優子、細川ちか子、沢村貞子上原謙、小泉博、有馬稲子加東大介  

かつては芸者として働いた中年女のもとに、以前燃えるような恋をした男が訪ねてくる…。老いを意識する年齢になった芸者上がりの女たちの様々な日常。格好の素材と女優陣を得て冴え渡る成瀬演出。◆キネマ旬報ベストテン7位

噂の娘『噂の娘』
1935/PCL/白黒/57分〈ニュープリント〉
脚本:成瀬巳喜男 撮影:鈴木博 美術:山崎醇之輔 音楽:伊藤昇  出演:千葉早智子梅園龍子、伊藤智子、汐見洋、御橋公、藤原釜足  

チェーホフの『桜の園』にヒントを得た成瀬のオリジナル脚本による作品。老舗の酒問屋の没落を背景に姉妹の葛藤を描いた秀作。東京日日新聞(後の毎日新聞)第2回全日本映画コンクール優勝作品。非営利上映組織〈コミュニティシネマ〉により待望のニュープリント化!◆キネマ旬報ベストテン8位

成瀬巳喜男監督特集。本日は三本見てきた。
「稲妻」
成瀬巳喜男監督が「私の代表作は浮雲ではなく稲妻である」と言ったといわれる監督満身の傑作。
当然キネマ旬報でも第二位に選ばれています。
主演の高峯秀子を中心に異父姉妹の心の葛藤とそんな娘達をうんだ母の心理を描いた成瀬監督得意のテーマ。

例によって縦の構図が描かれるかと思えば、この作品では極端な縦の構図は現れません。この作品は先日見た「舞姫」「めし」と「夫婦」「妻」の間に位置する作品ですが、毎回、登場する通りをこちらからずっと撮るシーンはでてきません。しかし、作品のリズム、テンポはさすがに成瀬監督の言える世界が見事にでています。

「晩菊」
こちらは「浮雲」の直前に作られた作品ですが、少しずつ成瀬監督の戦後作品の形が固まってきたように見えると共に、独特のセンスとリズム、そして、あくまで作品を娯楽として観客に見せようとする意識の現れもあって、それらの融合が一つの完成を見た秀作でした。

この作品には得意の縦の構図はもちろん、セリフ回しや、シーンの中にユーモラスに観客に笑いを誘う場面もたびたび、しかもさりげなく挿入されています。それが生活描写の糧になると共にさらなる作品のリズムを作り出して、物語をまとめていることも事実で、次の作品「浮雲」がほとんど硬派の作品に仕上がっているのとは対照的に下町の人情や女達の生活描写が心地よいテンポで展開して、非常に好感のある作品でした。

個人的にはキネマ旬報のベストテンに入った「稲妻」よりも私はこちらの作品の方が好きですね。

「噂の娘」
これは幻と言われた成瀬監督作品の一本で、数十年ぶりにニュープリントされた一作です。
「妻よ薔薇のように」と同年の作品らしく、「妻よ薔薇のように」でみせた音のオーバーラップや画面の登場人物のジャンプショットなどが多用されていて、60分足らずの作品にもかかわらず凝縮された密度の濃い作品に仕上がっています。

チェーホフの「櫻の園」をベースにした作品と言うことですが、成瀬監督にかかると完全なオリジナルに見えるから素晴らしいですね。
しかも、出演しているキャストの演技力に圧倒される作品で、登場人物の娘二人(千葉早智子梅園龍子)はもちろん、妾のお葉さん役の伊藤智子、父親の御橋公などどれも素晴らしい演技を見せてくれます。
特におてんばの現代娘役の梅園龍子には感嘆。やや太り気味の大柄な女性ですが、非常にかわいらしい女性を演じて見せて、今の20前のアイドル系の女の子よりずっとかわいらしく見えるし、惹かれてしまいました。

少々わざとらしいほどのジャンプカットやオーバーラップ、ユーモアシーン仁尾挿入が続きますが、さすがに成瀬巳喜男監督のリズムは否応なく発揮されていて、引き込まれてしまいます。

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高峰秀子 林芙美子 成瀬巳喜男

成瀬巳喜男 THE MASTERWORKS 2 成瀬巳喜男 THE MASTERWORKS 1 銀座化粧