くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「河内山宗俊」

河内山宗俊」(こうちやまそうしゅん)は山中貞雄監督作品の現存する三作品のうちの一つである。
そして、私はこの映画を見て山中貞雄監督のすごさを思い知ってしまいました。先週見た「丹下左膳餘話百万両の壺」を見たときはまだそのすごさに気がつきませんでしたが、今回の作品でその真価を知ったような気がします。

繰り返しの芸術と言うべきでしょうか、前半部分は軽妙なセリフの繰り返しと小気味よい展開で見ている私たちを引き込んでくれると共にいつの間にかどっぷりと物語の中に浸ってしまいます。そのウィットの効いたセリフ回しに思わず笑わせられると共に、まるで繰り返しているうちに、一つの笑いの話の中にはまりこんだように緻密に計算され尽くされたものか天性の演出の才能によるものか、画面にのめり込まされてしまうのです。

軽いタッチで繰り返されるコミカルながらもしっかりと演出されたストーリー展開と奥行きのしっかりした画面づくりがただならぬ作品のできばえを意識させられたとたん、物語はまるで今までの軽妙なタッチから一転してシリアスなアクションへとつながってきます。とたんにカメラワークは一気に縦から横への動きのある展開に変わり、あれよあれよという間にラストシーンへと引き込んでいきます。

一人の少女お浪(16才の原節子)を救うために奮闘する河内山宗俊と金子市之丞、それは粋も苦いも経験した癖のある男達のただ一筋の希望の光でありある意味マドンナに対する男の純情であるのかも知れません。そのマドンナを命がけで大芝居を打って助けようとする姿は、今の生活にどことなく希望を失いかけている自分たちの生き甲斐の取り戻しであり、今まで生きてきた証を求める姿なのでしょうか。

ラストシーン、体を張って追っ手をくい止め、その視線の彼方にお浪を助けに彼方へとかけていく弟の広太郎の姿を映しながら物語は幕を閉じますが、あまりにも感動的ではありませんか?そこへ至までの素晴らしい場面展開とカメラワークに、小津安二郎をして「末恐ろしきやつ」と言わしめ、黒澤明監督が「山中に追いつけ追い越せ」と思わせたたぐいまれな才能がしっかりと映し出されていました。すごい!ただその一言に尽きますね。

河内山宗俊河内山宗俊
1936年/82分/モノクロ/スタンダードサイズ/日活京都=太秦發聲作品
監督・原作:山中貞雄/脚色:三村伸太郎/撮影:町井春美/録音:萬寶圭介/音楽:西悟郎
出演:河原崎長十郎中村翫右衛門原節子市川扇升、山岸しづ江、市川莚司

無為な日々をやり過ごすヤクザ者、河内山宗俊と金子市之丞。ふたりの心の慰めは甘酒を売る健気な娘・お浪だった。そのお浪が、不良の弟・広太郎の不始末から借金を負い、身売りを決意する。お浪を救うため、一世一代の大博打に命を懸ける、ふたりの男の無償の闘いは、歌舞伎「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)」、ジョン・フォード監督のサイレント映画「3悪人」を下敷きにしている。また、当時16歳の可憐な原節子がお浪を演じている。