美しくも悲しい文芸大作。
行定勲監督が描いた三島由紀夫の世界はまさしくこの表現がぴったりの素晴らしい作品でした。
冒頭に、庭の古木を背景にふたりの子供(幼なじみの聡子と清顕)がカルタ取りをしている場面、静のシーンからゆっくりとカメラが右に動くと聡子の父の姿、そして続くセリフ
「聡子が成人になって嫁ぐ日が来たときはその前夜に・・・」と蓼科に語るシーン、そしてそのままカメラはもう一度二人の子供にパン・・春の雪が庭に降り始めます・・・
非常に長回しのカメラワークでゆったりとした大正時代のムードを見事に映し出し、原作の古風な言い回し、セリフをかなり忠実に脚本に生かした行定勲監督、これはただ者ではない。
おそらく雪はデジタル作成であろう、しかし、まるで花びらが舞うように物語のキーポイントでひらひらと舞う場面はまさしく嘆美と妖艶の世界である。
めまぐるしいような展開が当然のような現代の映画作りの体制の中で、とにかくゆったりと物語を語っていく今回の作品は一つのは安心してみることが出来るだけでなく、映画の作り方の一つのチャレンジではないでしょうか。
対象の風景を大きくCGで描くことで文芸大作を主張することも出来たかも知れないこの作品、しかし、そんな小手先の映像を取り入れずに、室内シーンや狭い空間での物語展開、そして所々に今なお残る実在のロケーション地などをふんだんに入れて美しい世界を作り出すことに大成功しています。
林の中から鎌倉の大仏を見下ろす構図や無理矢理雪見に誘いに来た聡子、そして清顕を乗せた馬車が雪の中を走る場面、さりげなく風景をCG合成した手腕は映画を知るものだけが作り得る映像マジックの世界です。
聡子が馬車の窓を開けるとひらひらと雪が舞って入ってkる、ここも美しい。これが本当の特撮の使い方ですね。まるで夢の中に入り込んだようになってしまいます。
ラストシーン(ここから先はネタバレです)
大阪へ向かう聡子を清顕が必死で追って駅のホームで車内の聡子を見つける部面、くどくもなく短くもない絶妙の時間はそれまでのまったりとした長回しの効果が最大限に発揮されるシーンです。
汽車が走り出す、清顕が追う、聡子がカルタの札を差し出す・・清顕の手がのびる・・・
ほんのわずかにテンポを速めたこのシーンは天才的ですね、誰もが涙する一瞬です。
さらに続く出家のシーンからラストシーンの清顕が汽車のなかで眠るように目を閉じていく・・
滝の上に二匹の蝶がまう・・・もう感動のエンディング!!
と、思いきや突然、宇多々ヒカルの「ぁぁあああ!!!!」というエンド曲が流れる!
オイオイ・・といわざるを得ない。せっかくの見事な作品の大団円が彼女のやたらさけぶ曲でぶちこわされる。ええかげんにせぇ!と最後に一言。
でも素晴らしい映画でした。
春の雪 | |
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