くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ブラザーズ・グリム」

ブラザーズグリム7年間の沈黙を破って、といっても企画は5つもあったのであるが、結局作品として完成しなかったテリー・ギリアム監督が満身の演出で発表した作品「ブラザーズ・グリム」。まさしく「ヴァン・ヘルシング」をテリー・ギリアムが作るとこうなる、という作品だった。

自ら創作した童話の世界の中で冒険をするグリム兄弟の物語は、その様々なシーンの中に「シンデレラ」や「眠れぬ森の美女」「ヘンデルとグレーテル」など彼らが作り出した主人公達を効果的に挿入して、摩訶不思議なファンタジー映画になって完成されています。

Brothers Grimm
童話の主人公達に特に物語の本筋に関わることの無いように織り込んでいき、グリム兄弟は怪物退治で有名という設定になっているあたりはかなり毒がありますね。しかもその怪物退治もほとんどが詐欺のようなものなのですから、これこそテリー・ギリアムの世界。

独特の構図は随所に見られ、画面の右半分に大きな顔を配してその背後をパンフォーカスでとらえながら会話するシーンなどはまさしくテリー・ギリアムマジック。風刺劇でもないのにどこか影でニヤ笑いしているような雰囲気はちょっと「ヴァン・ヘルシング」とは違うでしょうか。「バロン」の時の印象に近いかも知れません。

私はテリー・ギリアムティム・バートンがどこか似たような作風かなと思ったことがありますが、ティム・バートンのブラックユーモアとテリー・ギリアムの風刺は似ているようで似ていないかもしれません。うまく言えませんが、テリー・ギリアムの方が暗いイメージがある。

さて、今回の「ブラザーズ・グリム」非常に丁寧な脚本で物語が進みます。挿入される童話の登場人物達は無関係のようで物語の進行に重要な役割を持っている。さらにCGを使ったスペクタクルなアクションシーンはそれなりに押さえられていて、少しずつクライマックスに持っていこうとするのですが、どの場面もしっかりと作られているので見ている私たちが思わず食い入ってしまう。物語の進行や関係をさりげなく語っていくあたりの演出は心憎いです。

この作品の完成度の高さはおそらくテリー・ギリアム作品の中でも随一でしょうね。本当に見事です。誰もが知っている童話の主人公を使っているので入り込みやすいし、変に物語が複雑にもならない。ラストの謎解きの意味は別にたいしたことはないのですが、ここに重点は置いていないのですよという監督の声が聞こえてくるようで、これも又成功の要因でしょうか。あんまりこのクライマックスに力を注ぎすぎるとラストシーンのハッピーエンドが非常に薄っぺらくなっていたことでしょう。

私としてはこの作品はかなり満足の一品でした。

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