くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フライトプラン」「オリバー・ツイスト」

フライトプランジョディ・フォスターが主演しているというだけで見に行った作品である。
ジョディ・フォスターはあの演技力と存在感にもかかわらずあまり作品に恵まれていない。もちろんアカデミー賞主演女優賞を二度受賞しているものの、全体として凡作にも頻繁に主演している。それでも、彼女が出ると見に行く人が多いのだから、疑う余地なく大女優なのだ。

さて、今回見た「フライト・プラン」、監督はドイツの新鋭ロベルト・シュヴェンケという人である。スタイリッシュな映像を得意にすると解説に書いてあるとおり、タイトルバックからエンドタイトルまでCGを使った凝った映像が展開する。やはり007同様ヨーロッパ系の監督さんはこういう懲り方をする人が多いですね。

物語は宣伝にもうたわれているとおり密室となった巨大ジェット機の中で娘が失踪し、ほかの乗客も誰もその娘を知らないという展開で、主演のジョディ・フォスターが一人孤軍奮闘して失踪した娘を探すというサスペンス映画である。

この物語を聞いたときに思い出したのがアルフレッド・ヒッチコックの傑作でリメイクもされた「バルカン超特急」(リメイク版は「レディ・バニッシュ」)である。
この作品は列車の中で知り合った夫人がいつの間にか失踪していなくなる。主人公たちは一緒に乗った乗客に婦人の事を聞くが誰も知らないという。
この作品の種明かしは結局政治的な設定なども盛り込まれたヒッチコック得意のサスペンス映画であった。

つい思い出したのはその物語の設定のみでなく、ジョディ・フォスターが周りの人に、もともと娘はいなかったということを納得させられかけたときに、窓ガラスに娘が息を吹きかけて書いたハートマークを発見するくだりである。「バルカン超特急」でも窓ガラスに、息を吐きかけて書いた文字(何だったか忘れましたが)が主人公たちに夫人の存在を確信させるきっかけになる場面があるからだ。

そうした点からもヒッチコックを意識していることは明白なのだが、「フライトプラン」は凡作であった。
物語は最初から最後まであきさせないくらいにテンポがいい、次々と先へ先へとサスペンスが進んでいって、眠くならずに見終わってしまうのである。それはとにもかくにもジョディ・フォスターの名演ゆえに尽きるのであるが・・残念ながら、娘がいなくなったという謎を解いていくくだりに力が注がれていない。乗客全員が犯人であるかのように見せなければいけないのであるが、そのあたりに力が注がれていない上に、謎解きのサスペンスも弱く、あっさりとネタばれしてしまう。ちょっともったいないというべきか。

結局、何のことはない展開でクライマックスを迎え、なぁぁんだと終わってしまう。謎解きの面白さはそれほど期待もしていなかったので、これはこれで見て損のない映画でした。

オリバーツイストオリバー・ツイスト」はロマン・ポランスキー監督だから見に行ったという作品。
芸映画というのは苦手である。とはいえやはりロマン・ポランスキー作品となれば見ないわけには行かない。

オリバー・ツイスト」といえばチャールズ・ディケンズの古典文学。貧しい孤児の主人公が金持ちの老人に拾われてめでたしめでたしの物語である。今の時代、さすがにこのお話をそのまま楽しむにはかなり無理があるのであるが、そこはさすがにロマン・ポランスキー、色調を抑えた映像と、丁寧かつまじめな演出で古典文学を見事にスクリーンによみがえらせている。

かつて、ポランスキー監督は「テス」でもトーマス・ハーディの古典文学を映像化している。この「テス」も洗練された映像と透き通るようなナスターシャ・キンスキーの美しさが見事にマッチした傑作であった。

今回の「オリバー・ツイスト」はさすがに大勢の個性的な登場人物を描こうと四苦八苦したためかどうも主人公の存在感が薄い。もっと感動すべく一本筋の物語に作られているはずなのにどの人物も中途半端でちょっと惜しい気もする。
本来、主人公オリバー・ツイストと盗人の首領フェイデン(サー・ベン・キングズレー)との人間関係がもっとストレートにラストの感動につながるべきであったのだが、それが描ききれていないのは時間的に二時間あまりでは無理のある膨大な物語であるせいだったのかもしれない。

しかし、葬儀屋から逃げてロンドンを目指そうとしたオリバー・ツイストの眼前に広がる田園風景は感動である。全体の町並みでの物語が抑えた色調でとらえられているので、この好対照の美しい景色は、思わず主人公の希望に晴れた心を見事に表現している。しかし、その希望あふれる景色は、すぐ直後に再び抑えた色調に変わって現実の厳しさが主人公にのしかかってくる。この色調の使い方は前作の「戦場のピアニスト」を思い起こしますね。

結局、さすがポランスキー、やはり巨匠は巨匠、前作ほどの迫力はないものの、すばらしい秀作であった。