くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ミュンヘン」

kurawan2006-02-11

スティーブン・スピルバーグが満を期しての社会派映画、ついに見てきました。
とはいえ、おそらくスピルバーグ作品でなければ見に行かなかったような内容の作品なのですが。

感想から言うと、本当にスピルバーグはこの映画を撮りたかったのだろうか?という疑問である。
さすがにスピルバーグ、三時間弱の長尺ドラマを一気に見せる手腕には頭が下がります。天才的というリズム感を作り出す彼の演出力は感服すると言わざるを得ませんね。

冒頭シーンはオリンピック村へテロ集団が忍び込み、そして選手の部屋へ突入するところから描かれていきます。このあたり、ありきたりにドキュメンタリータッチにしないところがやはりスティーブン・スピルバーグの自信を伺わせられます。

そして、シーン半ばにして、ニュース場面からミュンヘンでのテロ事件の全貌が映し出され、物語はテロ集団を極秘に一人ずつ暗殺していこうとする計画へと、つまり本編へと突入していくのです。・・・・が、この冒頭から本編への導入部がどうもスピルバーグのさえがもう一つ見られません。ともすると、このあたりで退屈になりかけるのです。

ところが本編に入って、最初の暗殺が成功し、次の暗殺が行われるあたりから、スピルバーグの職人的なあるいは天才的な映画のリズムが生み出されてきます。見事な間合いで爆発音を入れて、一気に観客をスクリーンに釘付けにする。後はもう、次々と暗殺計画をひねりながら、一方でターゲットの居場所を聞きださんとする努力、そして少しずつ迫る自分たちへの身の危険。さらに、主人公をむしばみはじめる恐怖。ここまで重厚なドラマをこうもしっかり作れる監督はやはりスピルバーグ以外にはいないでしょうね。並の監督なら退屈そのものになるところです。

ワンシーンワンカットを挿入するかと思うと、非常に古典的なモンタージュで画面転換を行い、テロ事件の一部始終を再現しながらこの作品のテーマへと近づけていく。本当に、良くできた作品です。もし、一般の監督がこの程度の作品を作ったのなら絶賛したくなるほどの秀作である。しかし、監督はあのスティーブン・スピルバーグなのだ。私たちのような年代の映画ファンには神様のような人、野球好きが長嶋茂雄を崇拝するようなものなのだ。もっと、もう一癖もふた癖も欲しかった。

シンドラーのリスト」というスピルバーグ作品がある。こちらも実話をもとにした硬派の作品である。この作品はさすがにスピルバーグと呼べるシーンがいくつもあったし、他の追随を許さないほどの見事なできばえであった。監督の情熱が伝わってきたのであるが、今日見た「ミュンヘン」にはそれがない。工夫してやろう、見せてやろうという意気込みが見えないのだ。まだ「宇宙戦争」の方がスピルバーグらしかった。

確かに、今のスピルバーグは世界的な巨匠の仲間入りをしている。従って、あるレベル以上の何かを作品にしないといけないのである。その辺が少し残念であった。

ミュンヘン―オリンピック・テロ事件の黒幕を追えミュンヘン―オリンピック・テロ事件の黒幕を追え
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