くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「SPIRIT」

SPIRIT

ジェット・リーが最後のマーシャルアーツ出演作として選んだのは、先日見た「力道山」の中国映画版だった。

物語は実在の人物フォ・ユァンジャの半生を描いた物語。完全な実話というわけではないと思いますが、ストーリーの根底にはアジア諸国から見た西洋批判がまざまざと息づいています。もちろん。中国が革命のまっただ中に巻き込まれていくいわば激動の時代。今までの帝政から大きく変わり、近代国家への第一歩となる時代の様々な矛盾も描き込まれています。

前半部は武人としてのフォ・ユァンジャが若さのあまりにひたすら武術を磨き、冷酷とも言える試合を重ねていって天津一の武人になっていく姿を描いています。しかし、そんな彼に芽生えた奢りは最愛の娘を殺されるという悲劇を迎え、物語は一転して後半部へと移ります。

このあたりまでが適度に格闘シーンが盛り込まれていて、さすがにマーシャルアーツといえる中身の濃い演出がふんだんに入っています。

後半部分がまさしくこの作品のテーマという展開になってきます。
絶望の中で自殺に近いことを試みたフォ、しかし奇跡的に助けられ、片田舎で静かに暮らしはじめますが、このあたりのフォの心の変化が本当にさりげなくスクリーンに映し出されています。

ぎらぎらした顔立ちが次第に穏やかに変わっていくジェット・リーの演技はみごとです。中国の片田舎の風景が美しい映像展開で映し出され、四季の変化の色合いをCGも交えながら見せていくあたりはなかなか見応えあり。

さて、今までの自分の心を反省した主人公が久しぶりに天津に戻ってみると、時代は大きく変化しはじめているのに気がつきます。そして、目の当たりにする西洋からの蔑視。中国の誇りも儒教思想もあったものではない中で、たださげすまれていく母国の姿をうれいて、フォは外人格闘家と戦う決心をする。

もう、ここからは「力道山」の世界です。中国の人たちが大柄な外国人を倒していくフォの姿に嬉々として拍手する。
西洋人を倒していくフォ・ユァンジャの姿はまさに日本における力道山の姿である。

しかし、ここで考えてみたい。中国も日本も同じ立場なのではないでしょうか?西洋の大国に良いようにされているアジアの国々。「力道山」を製作したのは韓国です。今、日本を含めてアジアが一つになる必要性を説いているのではないでしょうか。私はそんなテーマが見え隠れしているように思えて仕方ありません。

作品としては非常に無駄のないしっかりしたできばえになっていて、日本人として中村師童の描き方も好感度抜群に登場させているし、西洋人を完全に悪として描いている。このあたりの人物描写も見え隠れしているテーマを裏付けているように思えます。

良質の秀作でした。