くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「クラッシュ」

クラッシュ

「ミリオンダラーベイビー」の脚本を書きアカデミー賞にノミネートされたポール・ハギス監督。そのポール・ハギス監督が今年はなった作品「クラッシュ」は大本命の「ブロークバック・マウンティン」を退けて大穴でアカデミー賞の作品賞を受賞。脚本賞まで受賞した。

さて、その話題作をやはり見ておこうと本日急遽出かけた。
感想第一。
「なるほど、脚本家ならではのみごとな交錯した人間ドラマ、おみごと!」

事故現場から始まる物語は過去にさかのぼったり現代に戻ったりしながら、様々な人物の物語がかいつまんだ人生のように展開していきます。しかも、その根底にはしつこいほどに繰り返される白人による黒人差別。日本人である私にとってはやはり入り込みにくい問題であるが、今なお根強い差別の残るアメリカ社会では重大なお話なのだろう。

一体この映画は黒人差別を痛烈に批判したいがための物語なのかと思いきやクライマックスが近づくにつれて、なんだかちょっとした出来事や言動から少しずつ自分の心の中を見直し、そして心の余裕が生まれてきて妙に素直にそしてきれいな心を少し取り戻して終わっていく。非常に心憎い起承転結である。

物語の構成がクエンティン・タランティーノがよく使う時間と空間の交錯した映像展開を巧に組み合わせている。しかもそれぞれの人物のエピソードを語る登場人物の演技や存在感がしっかりと描かれていて、一時も気が抜ける部分がない。このあたりの充実感は見事なものである。さすが脚本家として一流人になったポール・ハギスだけのことはあると納得である。

次第に別々の人生がどこかでつながり合い、一つのまとまったストーリーで大団円を迎える下りはわざとらしくなく、なぜか胸が熱くなってくるから不思議である。

こうしてみてくると非常に優れた作品であることは疑いようがないのであるが、「ブロークバック・マウンティン」とアカデミー賞を競い作品賞を取るだけの風格があるかというと個人的には疑問である。どちらかというと「ブロークバック・マウンティン」のほうがその映像芸術としての風格が上ではないだろうか。なぜ、この「クラッシュ」が大本命をひっくり返して作品賞を取ったのか、裏があるように思えてならない。

とはいえ、今年のアカデミー賞はいずれの作品も個人的にはそれほど好きなジャンルではないのは残念なことでした。