くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アンジェラ」「寝ずの番」

アンジェラ「アンジェラ」はリュック・ベッソン監督が六年ぶりに第十作目として放った監督作であり、最後の作品とされている作品だ。
それだけに力の入れようもなみなみならないものがあるように思う。つまり自由奔放に自分の芸術を追求した作品になっているのだ。

この映画に登場する天使アンジェラはレオンから見た少女のイメージかもしれない。本来描きたかった天使の姿を始めて自分の解釈を素直に映像にしたという感じである。

天使アンジェラを演じるのはリー・ラスムッセンという人。あのブライアン・デ・パルマ監督の「ファム・ファタール」でヴェロニカという思い切りセクシーなセレブを演じた人だ。なんせ背がものすごく高い。というのか主人公のジャメル・ドゥムーズという人が小さいのか、なんせ見上げるような長身として描いている。それはまさに人間ではないということの象徴であるかのようだ。

透き通るようなモノクロ画面で作り出すパリの景色は「あれ、こんなところからエッフェル塔を見るとこんなに見えるのか?」と思わせるような今まで見たことのないカメラアングルが登場したりする。どこか懐かしいフランス映画という雰囲気の甘ったるいような映像美の世界は「ジャンヌダルク」ヤ「フィフスエレメント」のような商業的な大作とは打って変わってリュック・ベッソンの個性の象徴であるかのようである。

ところどころに挿入されるCGやわざとらしいほどのオマージュの挿入などはまさしく実験映画といってもいいくらいチャレンジ精神にとんだ作品と仕上がっています。

ピュアなラブストーリーとしてクライマックスを迎えますが、そこにはあまりにもフランス的な先入観があるようで、私はもうひとつ入り込めませんでした。「ローマの休日」のラストシーンのような展開ながら、やはりアメリカ映画とフランス映画の違いであったかもしれません。

思い切り個性丸出しのリュック・ベッソン作品。やはり私は「レオン」につきますね。

寝ずの番さて、もう一本はしごしたのはあの津川雅彦マキノ雅彦の名で演出した人情喜劇「寝ずの番」
落語のねたをバックに、ある上方落語の師匠の家に次々と起こる不幸とそれに伴うお通夜の席(寝ずの番)での心温まるお話をまさに演芸調で見せていきます。

もう下ネタオンパレードで、男も女もあっけらかんと○○○や△△△の乱発で、しかも踊るは歌うは節度とか恥じらいとか理性とかそんなありきたりの人間心理なんか吹っ飛んで、陽気な展開をぐいぐいと押し付けてくる。

お通夜の場面に始まりが回想シーンが入ってくる展開は黒澤明監督の名作「生きる」が思い起こされますが、そんなテーマ性があるのかないのか、懐かしいマキノ雅弘監督の人情喜劇を真っ向から押し出してくるマキノ雅彦の監督手腕は只者ではありません。

そんな展開があれよあれよと二時間以上の長尺ドラマに引き込んで行き、あの緋牡丹博徒のお竜さん富司純子や硬派の俳優中井貴一までも喜劇役者にしてしまいます。
これはもう映画を知る人にしかできないエンターテインメント娯楽大作であり、黄金時代の日本映画の真髄を見せ付けるがごとき津川雅彦演出のきわみかもしれませんよ。

クライマックス、堺正章中井貴一の下ネタ歌合戦にはいつの間にか涙があふれて止まりませんでした。自分の通夜の席でもここまで親身になって故人を偲び、笑いの渦に浸って見送ってくれたらどんなにかすばらしいだろう。形だけ集まった親戚たちなど必要なく、本当に消えほしい人たち、いてほしい人たちに見守られてあの世へ旅立てたらこんな幸せはないかもしれません。

そんな人間の本音を丸出しにして、隠語の乱発で一気に突っ走ってくれるという感じのあけすけな傑作でした。まぁこの映画はテレビ放映は絶対無理ですね。