くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「嫌われ松子の一生」

嫌われ松子の一生

中島哲也監督が傑作「下妻物語」に次いではなった超破天荒な映画、それが「嫌われ松子の一生」だ。
なんと言っても興味があったのは前作の深田恭子とはうってかわって中谷美紀のヒロイン抜擢。

あのサイケデリックこの上ない映像世界に「電車男」のエルメス中谷美紀とは何とも不具合。しかも人生を不幸の固まりのように生きていく女性の半生なんてあまりにもイメージ違い。でもその矛盾が最高の結果を生んだのです。

物語はいきなり度派手なCG満載のミュージカル仕立てで始まります。そして、ちょっと場面が展開するといきなり「風と共に去りぬ」ばりの真っ赤な夕日をバックにこれまた「風と共に去りぬ」ばりのタイトルデザインの「Memorys of Matuko嫌われ松子の一生」のロゴがでます。

お話は松子の遺骨を取りに来た弟(香川照之)がその息子(瑛太)に松子の部屋を片づけるように指示して帰るところから回想形式で始まります。
あとはもう得意の中島哲也映像が満載で、幼い頃の松子から少しずつその人生を描いていくのですが、例によってミュージカルシーン、サイケデリックなCGシーンが所狭しとスクリーンを埋め尽くし、めまぐるしいほどに見せてくる圧倒的なエネルギーは、不幸の固まりのような松子の人生をまるで笑い飛ばすように見せつけてきます。

しかし、こんな不幸な人生なのに、帰ってからよく考えるとその不幸なシーンが全体に非常に少なく、というのか時間的にトータルするとほんのわずかであることに気がつくのです。恋人に暴力をふるわれるシーン、愛人に愛想を尽かされるシーン、ぬれぎぬを着せられる不幸のきっかけのシーンなどなどが実はほんのわずかで、あとはとにかくニコニコ笑う松子の笑顔や、映画版でオリジナルになるびっくり顔のシーンがその時間の多くを占めていることに気がつくのです。

最後まで見終わってもこんな不幸な女性の一生がとても晴れやかに見えて、実は松子はこんなにも幸せな人生だったという感動を覚えたりしている。それはラストシーンで階段を一歩一歩歌いながら上っていく松子の姿に感動しているのか、彼女に比べたら自分の人生なんて幸せそのものじゃないかと納得して感動しているのか、なんとも晴れやかな幕切れなのである。

確かに、何もかもがどん底になったクライマックスで、ふっと希望を見いだしたとたんにやはり不幸が訪れて殺されてしまうというあまりにも切ないラストシーンには涙せずにはいられないが、それが、普通に展開する物語のラストとはまた違うのである。これはハッピーエンドだったのではないか?それは観客にとってのハッピーエンドだったのではないかと思い起こしてしまうのだ。

前作「下妻物語」はただひたむきに自分の信念を貫き通すヒロイン(深田恭子)に共感し感動したものだが、どこか一生懸命に生き抜いた松子の人生にもある種の信念があったのではないかとも思うのである。

醜く太ってびっこを引きながら夜の町を歩く松子の姿はあまりにもみすぼらしいものの、あまりにも人生を生ききったという充実感も伺える。些細なことに目くじらを立てている自分がばからしく見えて、また一回り自分が大きくなったように感じてしまう作品でした。良い映画ですね