くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「涙そうそう」

涙そうそう

久しぶりに最高品質の映画を見ました。おそらく今年のベストテン、いやベストワンになるかもしれません。
いま、会いにゆきます」で土井裕泰監督を評価しなかった批評家連中を見返してやったと思います。

俳優さんの演技、脚本、プロットの組み立て、カメラワーク、そして土井裕泰監督の素晴らしい映画のリズムの構築。傑作とかいう仰々しいものではなくて最高品質という言葉がぴったりの良い映画。かつて日本にたくさんあった良質の名作、そんな映画を見た気がしました。

冒頭部、主人公のにーにー(洋太郎)妻夫木聡が妹、カオルを迎えるためにはしゃいでいる姿から物語は始まります。
その間のそれぞれの登場人物の紹介も非常に手際良い。

そして、カオルが登場し、洋太郎の恋人恵子(麻生久美子)が登場し、メインキャストがそろったところから、物語は一気に核心へ入っていく。
−−−ここよりネタバレあり−−−−−−

夢であった独立店開店の夜、実は詐欺にあったことになり、ここから急展開する物語は、この映画の核心である兄と妹の暖かい物語へと変わっていく。
借金を抱えることになり、一方で妹は大学への道を歩む。妹思いの兄は死にものぐるいで仕事をする。という一昔前にはよくあった日本映画の典型的なドラマ。

しかし、土井裕泰監督はあえて、この古風な展開を好んだのでしょうか?非常に丁寧に演出を進めていきます。
店が開店するまで多用していた手持ちカメラのシーンは少しづつ影を潜め、正当な固定カメラと俯瞰シーンを多用して沖縄独特の建物の性格を利用しながら、兄と妹の健気な姿を描いていくのです。

しかし、そのそれぞれのエピソードも本当にしつこくなく、しかも適度な長さで映画に素晴らしいリズムを作っていきます。
時に右から左の画面があるかと思えば次のカットで左から右へ、そしてそれとなく挿入されるスローモーション。この辺の組み立ても見事。

クライマックスはもういうまでもなく洋太郎の突然の死で一気にエンディングになるのですが、そうするための台風の接近、窓ガラスの破損、そして、発病と救急病院での久しぶりの恵子との再開、そして、病状の急変と死・・カメラはゆっくりと病室を出て病院の廊下を下がっていきます。

場面は変わって、葬儀の場面になりますが、そのエピローグも、そして死後に届く成人式の晴れ着もこのあたりは本当に大人の映画ですね。若い人は若い人なりに、そしてそれなりに人生を歩んできた人はそれなりに感じ入るところいっぱいのラストシーンでした。

どこにも隙のない素晴らしい脚本、そして素晴らしい妻夫木、長澤まさみの名演。土井裕泰の演出。本当に良い映画を日本映画界は作りました。