くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「トゥモロー・ワールド」

トゥモロー・ワールド

アルフォンソ・キュアロンという監督は「ハリーポッターとアズカバンの囚人」を監督した人である。
それまで何処か子供向けのファンタジー映画であった同シリーズを一気に大人の映画にした監督だ。と私は思っている。それほど分厚い作品を作り上げる監督である。

本日見た「トゥモロー・ワールド」、近い将来、人類に子供が誕生しなくなるという危機を描いたSF映画である。120億円の巨費を投じたという大作であるが、見る前から、どう考えてもCGが使われるわけでもなく、宇宙人が出てくるわけでもなく、派手なアクションや見せ場があるように思えなかった内容だけに、かなり期待薄だった。

出だしは、とにかく重い。先行きのない人類の未来が淡々とつづられていく。主演のセオ役のクライヴ・オーウェンの演技も非常に暗い。なかなか映画のリズムが乗ってこないし、今日はそれほど体調もよくないので、眠くなることを覚悟で必死で見始めた。

ところがなんと不思議、いつの間にかすっかり画面にのめり込んでいる。一人の妊娠した女性を逃避行させるというたわいのない物語展開なのに、何故か映画のリズムが作られてくるのだ。

ハリーポッターとアズカバンの囚人」の時もそうだったが、このアルフォンソ・キュアロンという監督はこの映画のリズムの組み立てが素晴らしく上手い。どこからどうなってというわざとらしさもなく、いつの間にか重厚な物語の中に観客を引き込んでしまう。ものすごい才能の持ち主なのかもしれない。

なんと言っても、圧巻はクライマックスである。収容施設での反乱、過激派の襲撃、その中で連れ去られた女性キーを捜すセオ、銃撃が繰り返され、荒廃した街の中で軍隊が入り乱れ、あちこちで爆発が起きる。この派手なシーンをノーカットワンシーンで描いていく。

時間を計ったわけではないが、10分近くあったのではないか。カメラはおそらく手持ちカメラで追いかけているのであろうが、主人公の後ろから、上から、横から、さらには回り込む、見上げる、先回りする。これはもう、CGなんかで見せるシーンが幼稚に見えるほどの圧倒的な迫力だ。しかも、この手持ちカメラ、オリバー・ストーン監督がよくやるようなドキュメントタッチの揺れ動くカメラではないので、疲れないのだ。

そしてさらわれた廃墟へたどり着いたセオの耳に、今までの銃撃の音から変わって、赤ん坊の泣き声がゆっくりと響く。この映画の最大の見せ場である。
そして、そこで戦闘をする敵も味方も赤ん坊に心を打たれしばし、銃を収める。「打つな!」という声、身を引いて、新しい命の誕生に感動して道をあける場面。何故かじんわりと胸が熱くなってくる。前編殺伐としたシーンの連続の中で、このラストのスローモーションが素晴らしい。まさに映像芸術である。

そして、さらに物語は最後の最後のラストシーンに移っていくが、それはぜひごらんになって欲しい。

昨今の派手なSF映画に慣れた観客の方にはおそらく、こんなにも厚みのある映像で見せる硬派のSF映画は期待はずれか、しんどいかもしれない。しかし、この映画はすごい。アルフォンソ・キュアロン監督の並々ならぬ才能のたまものが結実した傑作だと思います