くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「新・平家物語」

新・平家物語

溝口健二監督の没後50年ということで、各地で溝口健二監督の特集上映が開かれています。
本日私が見たのは「新・平家物語」。2004年に傷を修復し、当時の色を再現するべく角川映画とフィルムセンターがデジタルリマスターを行った復元版です。私のBLOGでそのときの新聞記事にのっとって取り上げましたが、そのときの上映は東京のみで、久しく待ち望んでいた作品です。

主演は市川雷蔵
市川雷蔵というと眠狂四郎のシリーズなどニヒルな二枚目役が思い浮かびますが、なんと、この作品では骨太の平清盛役。しかも、まるで文楽人形のように太い眉毛をつけてのびっくりするような化粧の市川雷蔵でした。

さすがに、話題になっただけあって、色彩は見事によみがえっていて、王朝絵巻が目をみはる映像で目の前に繰り広げられます。なんせ、月夜の灯籠の反射が見事に映し出されているのですから、デジタルマスターとは見事なものです。

大映は当初シリーズとして「新・平家物語」を企画したらしく、溝口健二監督作品はその序談の部分のお話になっています。
平清盛の父忠盛の時代が中心で、クライマックスで、ようやく平清盛が頭角を現して、やがてくる武士の時代が見えてくるところで物語は終わります。

男の黒澤、女の溝口と学生時代は教えられましたが、今回、劇場で買った溝口健二の解説本に寄れば、生涯90本の映画を作ったとのこと。しかも今、見ることのできるものは36本にすぎず、一般に有名な「雨月物語」「山椒太夫」「近松物語」等々は晩年の作品であり、しかも58歳という若死にのため、ようやく世界に認められた頃はすでにこの世にいないという状態だったことを改めて知りました。

なんと言っても驚くのは日本初のルパンの映画「813」を制作していたり、「宮本武蔵」も吉川英治版ではないものを原作に作っていたりと多士にわたっているのです。

したがって、女を描いた作品のみならず、刑事物もあれば、歴史物もあり、時代風潮を足りあげた作品もあります。当然、傑作もあれば凡作もあるといわれますが、90本も作っていれば当然であるし、実際、第二次大戦の真っ最中に超大作「元禄忠臣蔵」などを作ってみたりしているのですから、その実験的な精神は並はずれていたのでしょう。

そんなわけで、この「新・平家物語」、溝口健二独特のなが回しは目立つほどに登場しませんが、ドラマ的な演出は見事なもので、しかも、徹底的に完全主義にこだわる溝口監督らしく、僧兵の蜂起のシーン、平清盛の自宅のシーン、さらに父が襲われると聞いて駆けつけるシーンなどに、溝口監督独特の殺陣の構図を挿入してきます。「西鶴一代女」のようなすばらしいワンシーンワンカットこそ見られないものの、並ではない力量は十分に伺える作品でした。

ストーリーが、「新・平家物語」の序談のため、派手な合戦シーンは登場しません。はたして、合戦シーンを溝口健二監督が撮っていたらどんなシーンになるものなのか興味は募りますが、今となってはどうしようもありませんね。

とはいえ、日本映画の宝としての一本、見るには十分の価値のある作品でした。