くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「近松物語」

近松物語

本日も溝口健二監督作品「近松物語」。溝口健二監督が長谷川一夫と初めて組んだ傑作純愛映画だ。

大商人の手代茂兵衛はふとしたきっかけから主人の後妻おさん(香川京子)と不義密通の濡れ衣を着せられるはめに陥る。何とか、おさんだけはと四苦八苦するものの、もともと今の夫婦生活に嫌気がさしていたおさん、茂兵衛の言うことなど聞かず、やがて役人の追跡もきつくなる中、二人は琵琶湖に飛び込むことを決意。ところが、土壇場で茂兵衛が「もともとお家様(おさん)のことをお慕いもうしていました」という言葉に二人は本当の恋仲になってしまい、そのまま逃げることになる。

あらすじはそんなところなのだが、なんと言っても、脚本が見事である。
冒頭シーンで舞台となる商家の中の人間関係やら、登場人物の現代の境遇などが見事に淡々と描かれていく。そこへ、おさんの実家の兄、これがまた放蕩者で商売の方の才はまったくなく、遊んでばかり、結局多額の借金をして、その利息が払えず、妹の嫁ぎ先に金の工面にくるのである。

この、ほんの些細な金の工面のことから話は見る見る大きくなって、その金の工面をおさんから茂兵衛が相談され、その工面に主人の印を持ち出して、それをまた正直に主人に謝ったものだから、主人の叱責をかい、そのいいわけにおさんが出てきたところから一気に本編へとなだれ込んでいくのである。

ぐいぐいと引き込んでいく演出力もさることながら、画面を殺陣に組み立てた構図に奥の深いアングルで撮影した宮川一夫の名キャメラも見事である。狭い町屋の一階から二階へのカメラの移動撮影、手前から柱を挟んで奥で繰り広げられるおさんと茂兵衛の会話、さらには茂兵衛と茂兵衛を慕うおたまとのやりとりなど、狭い間取りのなかを所狭しとカメラが動く場面は圧巻。しかしながら、このあたりの移動カメラは「西鶴一代女」の時には外から大きくクレーン撮影がなされていた。これもまた別の意味ですばらしかったけれども。

また、溝口監督得意の長回しワンカット撮影におさん役の香川京子がすばらしい。もちろん長谷川一夫も見事ながら、香川京子が長ぜりふで迫真の演技をするのはもう感心してしまう。これこそ名女優と言うべきか。現代で、ここまで長回しの撮影をして耐えられる女優がいるのか疑問である。

話を戻すと、なんといっても、これでもかこれでもかと茂兵衛とおさんの身に不幸が重なってきて悲劇のラストシーンになるのであるが、馬に縛られて引き回されるラストでどこか晴れやかなおさんと茂兵衛の姿をとらえるあたりはどこか残酷でもある。このあたり「赤線地帯」のラストの京マチ子の手招きにもにたところがあるかもしれない。

この「近松物語」確かに傑作ではあるが私個人としては「山椒大夫」の方が圧倒的に感動しました。先ほども書きましたが、これでもかと茂兵衛たちの周りの人々が親でさえも敵になっていくあたりはちょっと寂しいですね。それが行く先々で暖かく迎えられるかと思うと必ず敵に回る人物がそばにいるという展開もあまりにも悲しいです。いいかげんにしようよ、としまいにはおもってしまって、 ちょったかなしかった。このくどさが、私がこの作品を「山椒大夫」より下に見る原因かもしれません。