周防正行監督作品でなければおそらく行っていなかったであろう「それでもボクはやってない」を見てきました。
いわゆる痴漢の冤罪にまつわる裁判制度の矛盾や警察制度の矛盾を追及しようとした映画である。
「Shall We ダンス?」で一躍巨匠の仲間入りした周防正行監督であるが、何を思ったのか久しぶりに撮った映画は社会派ドラマであった。確かに気持ちはわかるが、もう一つ吹っ切れない。
もちろん、真っ正面から痴漢の冤罪を取り扱っていけば堅いばかりで、訴えたいことも訴えられないことになると言うことは周防監督も知っているらしく、真正面から取り組んで導入部分を描く物の、役所広司が登場する場面からは、ステロタイプ化された登場人物を次々と出してくることで物語に拍車をかけていこうとする意図はよくわかる。
ところが、そのテンポへ乗りかけようとするとまたリアルな社会ドラマに引き戻される。
被害者の陳述も見ている私たちには被告同様歯がゆいばかりで的を得ない。これでは2時間以上もある作品で訴えようとすることが人々の心に突き刺さるとは思えない。
裁判制度はおかしい、警察制度はおかしいという問題点を投げかけられ、これではいけないな。何とかしないとという気持ちを呼び起こせるようなテーマ性がない。
比べて良いかわからないが、黒澤明監督の名作「天国と地獄」がある。
誘拐犯に対する実刑があまりにも弱いことを指摘し、法律まで改編させた名作である。もちろん、映画としても映画学校の教科書になるほどにその演出の卓抜性は群を抜いている。
つまり、この「それでもボクはやってない」には訴えようとする周防正行監督の気持ちはわかるが映画として完成されていない。2時間以上がそれほど長くは感じられないのはそれはそれでうまいのかもしれないが、ただ、見たあとは「確かにまちがっているな」と思える程度で、何とかしないとという気持ちになれない。
結局、物語は尻切れトンボで、あまりにも後味の悪いラストシーンとなる。これが周防監督のやりたかったことなのか?ただそう思うだけであった。