ポール・バーホーベン監督が古巣のオランダに戻って、久しぶりにメガホンをとった。
ハリウッドで監督をしていたときは、ややB級のマイナー映画を中心に発表してきたが、今回の「ブラックブック」は戦争大作である。
ナチスの侵攻で迫害されているユダヤ人女性の半生を描きながら、ふつうは描かれにくかったレジスタンスの裏の暗い部分を叙実に描いていく。
作品としては本当にいい映画である。2時間以上もあるというのに全く飽きさせない。それは、レジスタンスの裏切り者が本当は誰であるかということの謎解きのおもしろさが最後の最後まで続くという娯楽性もあるからかもしれない。
非常に丁寧なカメラワークと演出、特に奇抜な映像を作り上げるわけではなく、徹底的に人間同士の心のつながりや動きをスクリーンに見せていくという手法である。そこにはもちろん人と人の信頼の問題、極限下での確執、そしてかなえられないであろう状況での恋愛、いつの間にか堅くつながってい行く友情など様々な人間の心理が見事に取り混ぜられて物語が進みます。
巧妙に取り入っていく一人の主人公エリス(カリス・ファン・ハウテン)の姿、戦況を冷静に見つめるナチス将校ムンツェ(セバスチャン・コッホ)の姿、敵も味方も戦争という異常な世界の中では全く存在しない現実をまざまざと見せてくれます。
大作というと、やたら派手な戦闘シーンに固執したがるアメリカ映画にはない、実際に戦場になったヨーロッパ映画であるからこその見事なリアリティと感動が伝わってくるからすごい。
さて、物語ですが、いきなり、家族をナチスの銃撃で惨殺される冒頭シーンから、すでに私たちはその謎解きの部分に関わり始めます。どこかおかしい。これは待ち伏せではなかったのか・・
そんな疑問を持ちながら物語を追っていくと、命からがら逃げた主人公エリスが、運良く農民に助けられてレジスタンスの元へ。とはいっても、農民のシーンなどはことごとくカットされ、無駄のないシーンつなぎで物語を本筋に引き込んでいく脚本のうまさ。
そして、レジスタンス達にかくまわれながら、レジスタンスの一員となり、ふとした偶然と機転の良さから一人のナチス将校ムンツェと親密になる中盤、そして、少しずつ頭を持ち上げてくる、レジスタンスの中の裏切り者の存在。
後半部分はこの謎の裏切り者の姿が、ヒッチコック風にちらちらと伏線を持ちかけてきます。
やがてクライマックスが近づくと、最愛の人の死、本当の裏切り者の発見、と思いきや実はさらに裏があるというどんでん返しと、ラストシーンのむなしさ。
全く、見事な作品でした。