名作「羊たちの沈黙」に始まったトーマス・ハリスのハンニバル・レクター博士のサスペンスシリーズも、とうとうその生い立ちに迫る「ハンニバルライジング」に行き着きました。
出だしは、非常に閑静で美しい森の一角に立つ豪華な城、ハンニバルの父のもつレクター城、時は1944年、第二次大戦末期のリトアニアに始まります。
大きく構図を取ったまるで文芸大作のような画面で始まるこの「ハンニバルライジング」、もちろん、その後の天才殺人鬼の物語であることを知る観客としては一瞬度肝を抜かれます。
突然、航空機が攻撃、さらにソ連の戦車の襲撃、時はいよいよ共産主義へと突入したリトアニアの情勢へと物語を進めます。
このあたりまで、本当に文芸映画を見ているように展開していきますからなんとも言いようがありません。
「真珠の耳飾りの少女」で数々の賞を獲得したピーター・ウェーバー監督ですから、思い切りどぎつく、グロからはいるのは避けたのでしょうか。
このあとも画面は終始、どこか格調の高い構図で物語を進めていきます。
どうも、このピーター・ウェーバー監督はレクターシリーズに好感を示していないのか、どうも中途半端に見えて仕方ありません。
ハンニバル・レクターがいかにして、狂ったような殺人者になっていったのか、そして、なぜ人肉を口にするような異常な人間へと変貌していったのか、そして、あの天才的な頭脳はどこから生まれたのか?それぞれの心の変化がもう一つ十分に伝わってこないのです。
いわゆる復讐劇として展開する物語ですが、いかにして復讐を遂げていくのかが焦点で、特にレクター博士流の天才的な殺人も行わなければ、それほどグロテスクな殺し方もしません。非常に意味不明。
これがハンニバル・レクターの生い立ちとするなら、全然、このあとに続く「ハンニバル」や「羊たちの沈黙」に結びついてきませんね。
主演のギャスパー・ウリエルの不適な笑いは不気味ですが、脇に出てくるコン・リーの叔母さんの存在ももう一つ重要性を帯びてこないし、原作はどうかわかりませんが、なんとも、不出来なレクターシリーズだったように思います。