モントリオール世界映画祭でグランプリ受賞。スタッフ誰もが、そんなことを予想もしなかったために会場にもいなかったという驚きの作品である。
まぁ受賞の有無はともかくも、最初から見たかった映画なので、本日出かけた。
なんせ、受賞によるミーハーのおじさんおばさんでいっぱいの客席。
物語はオーケストラのチェロ奏者であった主人公の大悟(本木雅弘)が、ふとしたきっかけで遺体を棺に収める納棺師の仕事につくというお話。
最初は戸惑いながらも山崎努の仕事振りに徐々にほだされて、一人前になっていく物語。
そこの、かつての幼馴染の母などの納棺をつかさどることでさらに成長していきます。
滝田洋二郎監督は本当に日本の風景をきれいに情緒豊かに描いているのに感心。
冒頭、車で本木と山崎が移動する場面も、真横から捉え、背景はおそらくなつかしいスクリーンプロセスではないかと思わせるような、静かなシーンです。
前半三分の一は落ち着いたまっすぐなストーリー展開。しかし、妻である美香(広末涼子)が出て行って、一人になってからのシーンは、まさに様式美の世界で美しい。
日本の原風景をたくみに取り入れ、チェロをかわらで引く場面を挿入しながら、ひとりでの生活の場面と、次々と仕事をこなす場面が展開していくあたりは本当に目を見張ります。
中盤を越えて後半三分の一は妻である美香が帰ってきて、幼馴染の友人のお母さんがなくなり、自分を捨てた父の話がかぶさり始めるあたりからは、静かながら、前半とはまた違った力強いシーンが展開していきます。
二時間四十分という長尺作品ですが、展開に飽きた頃に新しいパターンの映像展開に切り替え、また次の展開にと絶妙のタイミングで観客をつかんでいく演出はまったく見事。これが映画のリズム、テンポであるとうならされました。
グランプリを受賞したという、快挙を納得するほど緻密な完成度はありませんが、ここまで映画の映画たる面白さを踏まえたうえで、物語を作り出していったというできばえに賞が与えられたのでしょうね。
いい映画でした。