くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「禅ZEN」

禅 ZEN

久しぶりに高橋伴明監督作品を見ました。

宣伝フィルムを見ていた頃から、かなり期待していた作品なのですが、期待通り、いい映画に出会えた気がします。
美しい自然の風景をふんだんに取り入れるような気がしましたが、その場面よりも、サイケデリックなCGシーンを効果的に挿入し、また、一人の宗教家の人間ドラマとしての道元の半生を描いた視点はすばらしかったです。

アップをかなり多用していますが、そのあたりは芸達者ばかりを起用したので、物語に迫力が出て、禅の心が胸に迫ってくる感じがしました。

自然の風景をたくさん挿入しなかったのは、人々の心に存在する自然というものを描きたかったのではないでしょうか?
確かに、月が棚田の水田に無数に写る場面は息を呑みます。それも、まるで道元の心を描いているように見えるのです。
道元がとなえる「春は花、夏ほととぎす、秋は月、冬雪さえてすずしかりけり」という言葉に秘める、自然への憧憬がそのまま、その姿からこちらに伝わってきます。

悟りを開くことを目的にしないこと、ただひたすらに「只管打坐」をとなえ、自らの中に仏を見出すことを座禅を通じて行う。その至高の無垢の境地こそが禅の教えであると説く道元の鬼気迫る説法を、淡々と静かなせりふとしぐさの中に描き出して生きます。
自然にあるものをそのまま受け入れること。見えるもの聞こえるものを自然体で受け止めること。その、まったく飾らない道元の生き様が、ラストシーンまで静かに伝わってくるのです。

「人間は死するときに、生前の行いだけをもっていくものである」と北条時頼を説くくだり、などなど、考えさせられるものがたくさんある秀作でした。
サイケデリックなCGシーンと相反する自然の姿、さらに道元の静かないでたち、それぞれが絶妙の絡み合いで、見事な作品として開花していたと思います