ダニエル・クレイグで再スタートした007シリーズ、前作と本作でジェームズ・ボンドが一人前のスパイとして完成するというストーリー展開である。
前作同様、ポール・ハギスの参加を含めて見事な脚本とマーク・フォースター監督の演出のコラボレーションで、前作以上の迫力のドラマに仕上がっています。
とはいえ、いかんせんかつての少年冒険活劇のような007で育ってきた私にとっては少々大人のドラマ過ぎて、ある意味物足りないのかもしれないし、あまりにもシリアスなドラマであるがために、かえって007シリーズとは思えなくてしんどいところもあることは正直な感想ですね。
前作で不遇の死を迎えたジェームズ・ボンドの恋人ヴェスパーの復讐劇のような始まりから、背後に潜む巨大な悪を追い詰めていかんとするジェームズ・ボンドの姿は、非常に初々しいと共にまだまだ若いなぁと思わせる人物描写で描いていきます。
かつてのシリーズが、すでに冷静沈着なジェームズ・ボンドとしてしか描いていなかっただけに、かなりシリアスですが、このあたりのまじめさを、細かいカットのアクションやら、息つく暇もないほどのカーチェイスや戦闘シーン、格闘シーンを組み立てていくことでかなりのハードボイルドのエンターテインメントとして楽しませてくれます。
監督のマーク・フォースター監督は「ネバーランド」などをはじめ、人間ドラマを掘り下げる演出に力量を発揮する監督でしたが、なんと、この作品を見ると、アクション映画も十分にこなせる職人監督としての資質もあることに気がつきますね。
とにかくここまで細かくカットするかと思わせるほどにめまぐるしいほどの場面転換は、まるで一緒になってジェームズ・ボンドと行動を共にしているような錯覚さえも覚えてしまいます。
全体がめまぐるしいために、逆に物語のリズムの波がやや希薄で、平坦になってしまっている部分があり、ストーリーのポイントがわかりづらくなっているのが難点といえば難点かもしれませんが、そもそも007シリーズに芸術性とか、上質の作品性とかを求める必要はないと思うので、面白ければいいじゃないのという感覚で十分成功だと思います。
ラストのエンディングでようやくあの007の定番ガンバレンス・シーン(丸い窓にむかって、ジェームズ・ボンドがこちらに銃を発砲するオープニング)が登場、ようやく諜報員として完成した007を意味するカットを挟んで終わります。そしてエンドタイトルの最後にはJames Bond will returnの文字が入って、次回からはまたあの007が始まりますよと宣言します。
まぁ娯楽映画として楽しめたエンターテインメントの一級品でした