くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「チェンジリング」「7つの贈り物」

チェンジリング

期待の人間ドラマが目白押しの時期である。
クリント・イーストウッド監督作品「チェンジリング」を見てきた。
1928年に実際に起こった事件をもとに、アンジェリーナ・ジョリーを主役に迎えてのシリアスなドラマである。

冒頭から、色彩を抑えた落ち着いた映像で物語をつむいできます。
宣伝フィルムにも使われた、行方不明になった子供が警察の捜査で発見され、母親であるクリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)に引き合わされるシーンまでを静かに描いていき、その後は当時の世相を映し出すべく、警察の堕落したずさんな捜査の様子や、腐敗した幹部連中の信じられない対応が次々と描かれていくのです。

派手なアクションまでこなすアンジェリーナ・ジョリーの芯の強い女性像がなんとも圧倒的な迫力で迫ってきて、時代に合わせた派手な口紅とあせた衣装、そして地味すぎるほどな化粧がこのドラマの重厚さをさらに倍増させてきます。
この何作かのイーストウッド作品らしく、非常に平坦なストーリー展開で見せてくるのですが、その底辺に潜む社会テーマが非常に見事に映し出されているといえますね。

ただ、取り違えられた子供の物語、精神病院に入れられた後の母親の物語から、真相へとストーリー展開していくところはちょっと、リズム感にかける気がします。真相に気付く刑事の存在感が非常に弱いのが原因でしょうか、この人物は物語の後半からクライマックスに核になる人物であるにもかかわらず、紹介シーンが非常に弱い。この作品の難点はここにありますね。

そのミスのために、クライマックスがやや希薄になったところも無きにしも非ずではありますが、クリント・イーストウッド作品ならではの淡々としたストーリー展開で、抑揚はないものの、落ち着いた、いわば小津安二郎作品を思わせるような映画のリズムが感じられる秀作でした。


もう一本はその宣伝フィルムのときから不思議に惹かれていた作品「7つの贈り物」をみました。ひさしぶりのはしごです。(ややネタバレ有)
導入部分から、なにやら意味ありげなシーンが次々と続くのですが、物語の本筋を暗示するカットがあまりにも短すぎる。そのために、まったく理由がわからないままに、宣伝フィルムで得た知識と、題名にたよって、物語を追っていってしまう。

もちろん、謎を明らかにしたくない監督の意思は十分に読み取れるのですが、隠し方が、ややマイペース過ぎるのですね。
自分はすべてをわかって作っているのですから、あの程度のカットで物語りは進んでいくのでしょうが、白紙の観客は何がなにやら、という感じです。
このあたり、たとえば、映画史に残るような名匠監督たちは実にうまいですね。さりげなく、しかもすべてを明らかにさせずに実に絶妙のタイミングと長さのシーンを挿入してきます。

とはいえ、この映画も物語の中盤にさしかかりだすと、それとなく、そしてもしかしたらというものが見えてきます。しかしながらここまで来ると今度は題名に唄われている7つの意味にこだわり始めてしまう。
一方で、物語の本筋に入ってくるラブストーリーがなんとも、この主人公の本来の意味する生き方に水をさすように割り込んでくるのはちょっと、惜しい気がします。結局導入部の物語の面白さが平凡なラブストーリーのお涙頂戴のごとくが中心になって終わってしまうのは残念です

とはいっても、作品としての良し悪しよりも、そのテーマ性、そして主人公が選んだ贈り物の意味、を考えると、非常に考えさせられる物語でした。
傑作とはいいがたいですが、私は見て損はなかった映画でした。