くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ダウト〜あるカトリック学校で〜」

ダウト〜あるカトリック学校で〜

メリル・ストリープフィリップ・シーモア・ホフマン共演のドラマ「ダウト〜あるカトリック学校で〜」をなんとガーデンシネマまで見に行きました。
芸達者な二人に加え、どこか惹かれる、単純なサスペンスでもないと思われる宣伝に、つられて見に行ったのです。もちろんアカデミー賞での評判もありましたのでね。

正直素晴らしい映画でした。傑作というより、良質の秀作という感じの作品でした。

静かな、音のない画面、そこに舞う枯葉。やがて次第に町の音がかぶさってきて、観客は徐々にこの物語の舞台であるカトリック学校へといざなわれます。
時はケネディ大統領が暗殺された翌年1964年、まだまだ黒人差別も、同性愛者への極端な偏見も、そして、厳格な宗教意識も残っていた時代です。

自由を謳歌してすでに久しくなってきた昨今の時代に浸りきっている私たちはまずその背景を抑えないといけません。
といってもこの作品、そのあたりのことをさりげない台詞などで説明してくれるので、さすが名作戯曲の映画化ですね。

階段の手すりや、学校の扉が真っ赤だったり、メリル・ストリープ演じるシアター・アロイシス校長の部屋がグリーンだったり、そのほかのブルーや、黄色など、映画の主題を的確に心理的に捉える美術はアカデミー賞受賞のデヴィッド・グロップマン、そして、フィリップ・シーモア・ホフマン演じるフリン神父が説教をするシーンでの司祭の衣装が毎回、見事な色とデザインで見せたり、修道女たちの衣装のリアリティを担当する名衣装デザイナーアン・ロス、そして、光と風、など自然を見事に物語の心理展開に生かした撮影監督ロジャーディーキンス、それぞれ一流のスタッフをそろえ、舞台の監督であり、戯曲の原作者であるジョン・パトリック・シャンリィ監督は、疑惑の不安定な部分は極端な斜めのシーンで捉えたり、音を効果的に採用して、校長と司祭の激論シーンや、やりとり、さらには普段のシアター・ジェイムズ(エイミー・アダムス)とのシーンを的確に演出したりと、どの部分をとっても、一級品のできばえに目が話せませんでした。

もちろん、名優二人が、どっちが正しいのか、疑惑が本当なのかそのあたりの微妙なところを見事に演じきり、物事を真正面からしか見ることのできないシスター・アロイシスと先進的で、いろんな角度から物事を捉えようとするフリン神父の両対極とその根底にわきあがる疑惑を通して、人間の視点の不確かさ、心の不安定さを最期まで、どっちがどっちと観客に偏らせない名演技で引っ張っていきます。

もちろん、若手エイミー・アダムスのシスター・ジェイムズもその中できらりと光る存在感で映画のストーリーテリングの役割を担っているのも素晴らしい。

結局、真相が不明のまま終わるにせよ、この作品は奥に秘められるなんとも不確かな疑惑をとおして、いかに、人の視点、ものの考え方はさまざまなものがあることを訴えてくるように思いました。
本当にいい映画でした