くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「グラン・トリノ」

グラン・トリノ

本当にいい映画である。
冒頭の物語が始まるや否や、いつの間にか、画面に引き込まれ、食い入ってしまう。

すでに78歳になったクリント・イーストウッド、その彼がおそらく最後の映画出演になるのではないかといわれている作品である。

朝鮮戦争で勲章をもらいながらも、今は、そんな過去よりも、息子たち孫たちのふがいなさに、日々、苦虫をかむように過ごす毎日。
隣近所はモン族と呼ばれるタイ、中国系の移民が住み、アメリカ人がいるかと思えば、礼儀さえもわきまえない、不良たち。
まさに、今の日本の現状はアメリカでも顕著であることに気付かされる導入部分である。

そんな環境のなかで、最愛の妻が死んだウォルト(クリント・イーストウッド)は、1人暮らしの生活を始める。
心配してくれているように振舞う息子たちの目的は彼の一軒家という財産、にこやかに微笑む孫娘の目的は彼が大事に磨く一台のヴィンテージカー「グラン・トリノ」。
頼るものもなく、1人暮らす彼の前に、不良たちの目に余る行動。それに耐え切れず思わず正義感でとなりの少女を助けたところから、物語は大きく展開を始める。

とにかく、圧倒的なクリント・イーストウッドの存在感と、迫力に、ワンシーンも画面から目を離せない。
休み明けの体調不十分の中で見たにもかかわらず2時間弱の物語に見入ってしまいました。それは彼の、年齢を重ねた中に培われた卓越した人間ドラマの演出力であり、78歳の年齢にして到達した、今の若者たちへの危惧と自らの人生に対する回顧、そして、これからの未来への憂いを描かんとする一心の気持ちから出た情熱であったのではないでしょうか。

いつものようにカメラはしっかりとすえつけられて、奇抜な画面演出などを持ち込まず、丁寧に、そして緻密な構成で物語をつづっていきます。
そんな地味な作風であるにもかかわらず、映画の本質である娯楽性を決して逃さない。
ふとしたせりふやカットの中にさりげない笑を挿入し、重苦しくなる展開を微妙に和らげていく作風は見事というほかありません。

そして、その微妙にしかも引き込まれずにおかないリズム展開の末に、衝撃的な事件、そしてクライマックスと、一気にラストを迎えるのです。
さすがにここで、ラストシーンを明かすわけにはいきませんが、見終わって、「ぁぁよかった」と思わず納得してしまう素晴らしい一本の映画だと思います