原作を読んでいるものとしては、あの淡々とした作品がどうして映画化不可能なのかわからなかった。
原作にはそれほどサスペンスフルな展開もなく、まさに静かなドラマが進行するのであるが、どこか不思議な読後感のある作品でした。
さて、映画化されるにあたって、小説の中の活字の世界はスクリーンに具体化される。その時点で、小説とはまったく違ったものに変わるのであるが、この物語ではそれは壁に書かれる落書きによって具象化される。小説を読んでいる段階ではどんな落書きがあの謎解きの物語へと進展していくのか創造の世界の中で進むので、そこに独特のサスペンスが生まれる。
そのあたりは今回の映画作品は実に見事に別物として生まれ変わっている。
サスペンスフルな場面は軽快な音楽と、テンポいい画面展開で引き込んでくれる半面、ドラマ部分は非常に静かな画面作りをするためにそのバランスが実身うまくひとつの作品として融合されて独特の物語になっています。
ちりばめられた原作の持つ小気味よいせりふの数々は、こうした場面展開に非常に効果的なスパイスとなって娯楽性を帯びさせているから、映画としても本当に面白いのである。
もちろん、謎解きの面白さはそれはそれで見所はあるが、それよりも、家族の絆、親と子の心のつながりなどが、丁寧に演出されているので、いわゆる秀作の域に達しているのである。