くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ポー川のひかり」「3時10分、決断のとき」

ポー川のひかり

ポー川のひかり
約30年前「木靴の樹」でエルマンノ・オルミ監督を知る。当時、学生だった私はその話題性のみで見に行きました。正直、しんどい映画だったという印象しかありません。
そして、久しぶりにエルマンノ・オルミ監督作品に出会いました。そしてこの作品が劇映画としての最後の作品ということでした。

30年映画を見てきた中で培われた映画に対する見識眼と知識の蓄積でこの映画をどう解釈するのか自分なりに興味津々出でかけたのです。

この作品は90分あまりの作品で、正直、見ているときはやはりしんどいというイメージでしたが、作品としてはやはり一級品でした。
大学の歴史図書館で床いっぱいに楔を刺された本のシーンから始まります。ひとつ間違えばダン・ブラウンの世界です。
この導入部分はカメラや音楽などもかなりサスペンスフルで、予備知識がなければサスペンス映画と勘違いするかもしれませんね。

しかし、物語は一人の大学教授が夏休み前にこの犯行を行い、姿をくらますところから本編へ入っていきます。
大学を飛び出した彼は自慢のオープンのベンツを乗り捨て、ポー川のほとりにいわゆるホームレスよろしく住むのです。
美しいポー川の流れ、地平線上に大きく写る巨大な月、川を行くにぎやかな船のシーンなど、ドキュメンタリーを中心に活躍するオルミ監督の見事なシーンが次々と挿入されていきます。

そんな主人公の周りに集まる人々との交流の物語の中に、川の流域に港湾を建設する計画や中洲で走り回るモトクロスバイクの砂煙など徐々に文明が忍び寄ってくる様をたくみに写しこんで、静かな物語が続いていくのです。
しかもこうしたメカニカルなシーンもオルミ監督にかかると自然の一部のように見えてくるから不思議ですね。

主人公の教授はキリストさんと呼ばれてくるのですが、DELLのノートパソコンを所有し、クレジットカードは所持したままという風刺はなかなかのもの。
こうやって思い返せば、さすがに完成度は高い。隙間のない充実した映像に仕上がっています。
ラストシーン、帰ってこないキリストさんを待つ人々の姿、光に照らされる路のなんとも美しく、ひそかに思いを寄せていたパン屋の娘の一筋の涙が不思議な感動を呼びます。やはりいい映画でした。


「3時10分、決断のとき」
ひさしぶりに骨太な男のドラマを見ました。そして久しぶりに西部劇らしい西部劇に出会いました。最高に面白かった。本当によかった。
クリント・イーストウッドが「許されざる者」で男臭い格調高い西部劇を作りましたが、あれとは違った中身の濃い傑作でした。

タイトルシーンから西部劇らしい音楽とテンポで物語が始まります。
1人の少年がベッドで寝ていると、なにやら外で物音が。
父ダン・エヴァンズ(クリスチャン・ベイル)が飛び出すと、なんと牧場に火が放たれ、大切な牛は逃げ出すし、馬小屋は焼かれてしまいます。

翌日牛を連れ戻すことと、今後の金の工面のために長男ウィリアムと街へ出かけますが、その途中でベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)率いる盗賊団が駅馬車を襲撃するところに出くわします。
こうしてダンとベンが因縁の出会いとなり物語は本編へ。
古き良き西部劇の定番のような展開にオールドファンにはたまらないノスタルジーを感じさせてくれたでしょうね。

登場人物を一人一人紹介し、しかもその一人一人に一癖もふた癖もある人物設定にしていくあたり、まさに定番の世界。
そして、ベンが街で逮捕され、彼の護送のために保安官以下数名が同行し、3時10分発の汽車に乗せるべく駅へと旅立つのがこの映画の中心です。
当然、ダンが同行することになるのですが、この道中でのベンとダンの掛け合いの中で次第に、不思議な男同士のドラマが芽生えてきます。

ふてぶてしいのですが的確な判断と瞬発力で危機をすり抜けるアンチヒーロー像としてのラッセル・クロウがまた素晴らしくかっこいい。まさに少年があこがれるヒーロー像ともいえますね。
やや、たれた目線からのにやりと笑うニヒルさがさまざまな心理描写を代弁するように訴えかけてくる。

そして、ダンが交わす会話の中に男としての誇り、父としての責任、今までの生き方への後悔などが演出され、一級品の西部劇ながら、どこか新しい男のドラマとしても磨き上げられていくのです。そして、巧みに挿入される派手な銃撃シーンやお決まりの拷問シーンなどオーソドックスな西部劇の場面も登場し、本当に厚みのある展開を見せるのです。

オリジナル作品や原作とは若干違うようですが、ここまで完成度が高いとうなるしかありません。
ラストシーンは書けませんが、ラッセル・クロウクリスチャン・ベイルの告白に「わかった」と一言いうシーンが最高に印象的。
本当にいい映画でした。もう一度みたいです。