くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「私の中のあなた」

私の中のあなた

ジグソーパズルでできた一つの家族の物語を、ひっくり返してそれぞれのピースをいろんな視点からスクリーンに映し出してみたようなそんな映画でした。

最初は時間の異なる場面が次々出てくるので当惑しかけますがそのうち、これは家族のメモリアルなのだと思い始めて、何も考えず写されるままにさまざまな家族のいままでのエピソードに触れて受け入れていくようにしました。
最後には正直、なんともいえない感動で泣いてしまいました。

物語は宣伝にもうたわれているように、白血病に苦しむ娘を助けるために遺伝子操作で生まれてきた妹が臓器提供を拒否する訴訟を家族に対して起こすという物語。しかしなぜ、そんな訴訟を起こすのか?その本当の理由は?というのがこの映画の見所になります。

主演の妹アナを演じるのが「リトルミスサンシャイン」のアビゲイル・プレスリン、11歳の女の子役ですが、非常にしっかりとした目つきで演技をする姿は本当に愛くるしいほどに切ないです。
しかも、訴訟の起訴の手続きをする検事がアレック・ボールドウィン。彼がまたいい。でっぷりと太って包容力のある演技で700ドルで訴訟を依頼してくるアナを快く受けます。合理主義のアメリカにこんな太っ腹な男っぷりのいい登場人物が出てくるのは見ていてすがすがしいですね。

ひたすら白血病の娘ケイトに必死で看病するのがキャメロン・ディアス。普段コミカルな映画で引き立つ彼女ですが、なんと、血眼になってケイトを助けるために狂気的にアナからの臓器提供を要求する姿が鬼気迫る演技で、見事です。

当のケイト役のソフィア・ヴァジリーヴァもなかなかすごい演技です。丸坊主で眉毛もない、しかも日に日に衰えていく様子が痛々しいほどのメイクで見せてくる。彼女の存在が次第にクライマックスに近づくにつれて大きくなってきて、物語の本筋にかかわってくるともう泣かざるを得ないです。

ケイトがベッドの上で繰り返し見るスクラップ調の写真集、治療を始めたころに知り合った青年との初恋。そうした彼女の物語がストーリーのほぼ6割近くを占めているのですが、その片隅にちらちらと写る弟ジェシーの寂しそうな顔やアナの潤んだ目が非常に物語りにすばらしい伏線になっている。

監督のニック・カサヴェテスは「君に読む物語」同様、散文詩のような映像表現で作品をつむいでいくのですが、次第にばらばらのピースがひとつの家族の生活にまとまり、ケイトが亡くなった後の家族の希望につながるエンディングまで非常に淡々とした美しいリズムが伝わってきます。

訴訟を起こした本当の理由が一気に明らかになると、自然と涙がほほを流れていきます。見事なタイミングというしかない。さすがに奇才ジョン・カサヴェテスを父に持ち名優ジーナ・ローランズを母に持つニック・カサヴェテス監督ならでは。
エピローグのアレック・ボールドウィンのシーンもいいですね。

非常の奥の深いテーマ性と美しい感動の物語にいい映画を見た後の充実感に浸ることができました