くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パンドラの匣」

パンドラの匣

太宰治の原作は読んでいなかったけれども、非常に好感度のある青春映画のようなさわやかさの残る作品でした。しかも太宰治の作風がきれいに反映されていたようで、良い映画でした。

太宰治というと「人間失格」に代表され、自ら命を絶ったというくらいイメージが付きまとうものですが、このような青春を謳歌するような作品もあるものだと感心しました。もちろん舞台は結核病棟なので登場人物は明日をも知れぬ病人なのですが、実にさわやかなストーリーが展開するのです。

物語は1945年、終戦の年に始まります。主人公利助は血をはいて結核療養所に入ることになります。そこでは皆あだ名で呼び合うことになっていて利助は「ひばり」と呼ばれるようになります。この療養所には看護婦のような立場の女性たちが大勢でそれぞれの患者を世話するという形を取り、それがそのまままるで学生生活の一ページを描いたような雰囲気をかもし出しています。もちろん、患者すべてが若者ではないのですが、それはそれでみんなが同じ立場で生きるという一体感があるのです。

そんな療養所を舞台にどこか切ないような淡い恋心、憧れ、生への厳しさなどが淡々と描かれていきます。アフレコしたといわれるせりふの数々が全編に詩のようにちりばめられ、その古風な韻の面白さ、ノスタルジックな味わいが古いようで新しい独特のムードを作品に映し出していくのです。
かつての文藝小説がそのまんま映像になって蘇えったような感覚に引き込まれる展開は、ちょっと遊び心を入れたタイトル挿入のシーンや、やや個性的なシーンのカットつなぎ、素朴ながらも生き生きした女性たちの描き方、死がいつ訪れるか判らないながらも何の危惧もなく暮らす患者たちの微妙な不安を見事のスクリーンに表現していきます。

富永昌敬監督作品は今回が最初ですが、なかなかミニシアター系のしっかりしたテーマ性を持った描き方は、非常に秀逸ですね。

主演のひばりを演じた染谷将太もいいのですがマー坊役の仲里依紗がすごく良い。彼女、アニメ版「時をかける少女」のヒロインの声をした女優さんらしいですが、はしゃぎまわる姿や、一つ一つのしぐさがなんとも愛らしくてかわいらしい。彼女が出ると場面がパッと明るくなるのは天性の才能でしょうか。素晴らしかった。

風邪薬を飲んでいて最悪の体調でしたが、ぜんぜん疲れることもなく楽しめました。良い映画でした