くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「なくもんか」

なくもんか

良かった。二人の天才の才能にうなってしまった作品でした。
1人は宮籐官九郎、もう1人は阿部サダヲです。

宮籐官九郎さんはもともときらいではなかったのですが、それはあの独特の台詞の応酬、、ドタバタギャグの連発、駄洒落、ぼけつっこみのバイタリティあふれる展開に魅せられてのものでした。しかし、この作品では違います。もちろんクドカンならではのギャグの連発は出てきますが、かなり押さえ気味といえば押さえ気味。一方でちりばめられた伏線が見事に作品を一本にまとめ上げています。どのタイミングでどの伏線を忍ばせていくか、どのタイミングでそれを効果的に出していくかが計算されつくされているのか、才能なのか、絶妙に物語に埋め込まれています。

主人公の作るソースが秘伝のソースより給食のソースのほうがおいしいとか、ゲイバーのエピソードとか、妻が出すギャグ的な計画書のエピソードなどなど、ほとんど無駄がない。しかも、ただのギャグに見えていたそうした伏線がちゃんと意味をなして生きてくるあたり、うなるというしかありません。これはもう宮籐官九郎の才能以外のなにものでもないでしょう。

そして主演の阿部サダヲがまた素晴らしい。もともと非常に演技もうまいし、クドカンの脚本にうってつけの俳優さんではありますが、泣き笑いの非常に微妙な演技を体で表現できる。父と兄を呼んですき焼きをする場面の阿部サダヲの演技はまさに天才的。なんともいえない物悲しさが笑いの中に染み出てくるのです。笑っているのにいつの間にか胸が熱くなっている。こんな演技ができる俳優さんを日本人ではじめてみました。

こうして、二人の天才が集まり、さらに芸達者が周りを囲み、監督の水田伸生もがんばって完成された見事な人情コメディであったと思います。

どのシーンどの場面、どのギャグひとつをとってもまったく隙のない完成度の高さ。良い映画でした。