くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「イングロリアス・バスターズ」

イングロリアスバスターズ

久しぶりのクエンティン・タランティーノ作品である。
お決まりのバイオレンスシーンはもちろんであるが、今回は特にテクニカルなカメラワークが秀逸であった。

冒頭、マカロニウエスタン調のオープニング。とある田舎の一軒家で男が薪を割っている。そばに女が一人。広大な草原であるが、舞台はフランスの片田舎である。そこへはるかかなたからジープが。乗っているのはナチスの軍人。

そして続くこのナチス将校と農家の男のやり取りが緊迫感抜群である。床下にかくまったユダヤ人を見つけんとたくみに話しかける将校、それに答える男。カメラが縫うように二人を捕らえるかと思うと、床下のユダヤ人を隙間を除くように挿入する。徐々にアップになっていくカメラアングルが、押しては引くという絶妙の繰り返しでどきどき感が増す。そして、銃撃。

こうした卓越したカメラワークと背後に使う音楽のセンスの面白さはまさにタランティーノ美学である。

暴力と殺戮、それがゲーム感覚で繰り返されるのはある意味、かなり危険な感覚かもしれない。主人公ブラッド・ピットが演じるアルド隊長が率いるバスターズが行う頭の皮をはぐ行為。それをしっかりと描写するところはかなりスプラッター

しかしそんなどぎついシーンもさらに続く緊迫シーンの連続に息をもつかせぬ面白さにつながる。
地下のバーでのドイツ人将校とバスターズのメンバーとのまさに手に汗握るやり取りの場面の見事さもまた、冒頭のやり取りと同様鬼気迫る心理戦である。それを演出するタランティーノのカメラワークは、平凡なようで非常に独創的なリズムを生み出していきます。

一方で平行で進むショシャナ(メラニー・ロラン)の復讐劇のドラマ。映画館を舞台に進むクライマックスへの伏線は次第にバスターズの物語と交わっていくのですが、いともすんなりとひとつにするところはかつてのタランティーノ映画に見られたわざとらしさはありません。すまり、大人の展開になったというべきでしょうか?巧み過ぎるというべきでしょうか。

クライマックスの緊迫のやり取りとスリリングなサスペンスはまさに一級品のできばえですが、どこか、かつてのタランティーノのギラギラ感が感じられないようになってきたようにも思えました。気のせいでしょうか。

もちろん、完成度の高さというか、タランティーノ芸術としてのできばえはおそらく「キル・ビル」の数倍あるでしょう。しかし、完成しすぎたようにも見えなくもない。どの場面、どのカットをとっても見事です。それが物足りないのは、ある意味贅沢なのかもしれない。