くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「陸軍中野学校」「陸軍中野学校雲一号指令」

陸軍中野学校

日本のスパイ映画の傑作といわれる陸軍中野学校を見る。
もちろん市川雷蔵映画祭の一本であるが、このシリーズは彼の晩年に近いころの作品である。この作品の3年後に彼はこの世を去るが、果たしてその物悲しさが漂っているように見えたのは気のせいでしょうか。

タイトルバックに静かなドラムの音が響く。独特のムードで始まるこの作品の魅力は女性を描かせると超一流といわせた鬼才増村保造監督がなんとアクション性とミステリー性が必要なスパイ映画を撮ったことでしょうか?しかしその意味はラストシーンで明らかになりますが。

タイトルが終わると、まさに小津安二郎監督作品を思わせるような平凡な庶民の家庭に始まります。しかしそのまま一気に中野学校の訓練シーンへと続く無駄のない脚本はなかなかのものです。
草薙中佐(加東大介)が巧妙に椎名次郎(市川雷蔵)の才能を机の上に置いたものを当てさせたり、巧妙な会話の中に見出していく導入部は白眉というほかありません。それに続く訓練シーンはさすがに日本的で、少々陰惨なところもないわけではありませんが、その弱点を細かいシーン展開で補い、同期生の自殺や、悲劇などの場面もそこそこの長さにとどめた展開はうまい。

訓練シーンが中心で、主人公がこれからどうなっていくのか、いかにひとり立ちするのかがこの作品の主題であるので、派手なアクションシーンなど、007などに見られるような場面を期待するのはお門違いで、そこがこの作品の傑作たるゆえんかもしれません。
自らが一流のスパイになるとともに、主人公を探すべく奔走していた婚約者(小川真由美)が英米のスパイになってしまうくだりの物悲しさはいやみもなく、といってメロドラマ的でもないところはさすが増村保造監督の手腕でしょうね。

さらにシネスコの横長の構図ですが、非常にものの配置や調度品、ふすまのデザインなどについて、絵画的に緻密な計算がされています。主人公は決して他の人物に隠れない画面作り、常にどこか苦痛にゆがむ姿を背景にしながら別の物語が一方で進む画面展開のうまさ。クライマックスであまりにも悲しい結末にもかかわらず、どこか淡々とする主人この行動の冷徹さ。

時の日本、時の軍人の姿を映し出すと主に、東洋的なスパイ映画として結実させんとするスタッフたちの意気込みが見事に出ていたと思います。評判どおり、傑作ですね


続いてみたのがその第二作目「陸軍中野学校雲一号指令」
第一作の完全な続編ですが、プロのスパイとなった主人公が最初に与えら得る任務を忠実にしかも巧妙に、そして知恵とスパイ技術を使って遂行していくさまが見事に描かれています。

監督は今回から森一生にかわり、第一作とはほんのわずか毛色の違った娯楽性の強いできばえになっています。
冒頭、明らかにミニチュアなのですが、貨物船が爆破されるところから始まるあたり、まさにエンターテインメント映画としての導入ですね。
続いて、爆破情報が漏れるというミステリーを英米のスパイとの頭脳戦として物語が繰り広げられていきます。今回も前作に続いて非常に緻密な脚本が作られていて一級のサスペンスとしても十分に面白い娯楽映画として仕上がっています。

周辺の人物の登場をそれとなく伏線や小道具を交えて映し出し、それが次第になぞを解く鍵となっていくあたりの展開はなかなか見もの。
市川雷蔵というとどうもニヒルな二枚目を想像してしまいますが、なんのことはない、頭脳明晰なアクションスターとして東洋の硬派の007といったイメージがぴったりです。

第一作同様、第二次大戦が徐々に身近になってくる時代背景があり、特攻や憲兵といった軍部の圧力が見え隠れする場面も所々に見えるとはいえ、ほかの戦争映画ほど陰惨な暗さが見えないのはすでに戦後ではないと言わしめた1970年を身近に控えた時代に作られたゆえんでしょうか。やや平穏すぎるような背景を舞台にしているようにも見えなくもありません。

しかし、外国映画に負けないスパイ映画を作らんとした意気込みは随所に見られ、マイクロカメラや血液検査による本人特定、パイプに仕掛けた盗聴カメラなどスパイグッズも登場してきて、娯楽色はかなりアップしています。

第一作同様の完成度の高さ、そして第一作とはまた違った面白さでいい映画だったと思います