くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ひとり狼」

ひとり狼

股旅映画の最高傑作という作品紹介につられて見に行った雷蔵祭りの一本です。

紹介どおり、素晴らしい作品でした。
一人の無宿者の後姿でタイトルバックが始まります。そしてタイトルが終わると孫八(名優長門勇)が囲炉裏の端で追分の伊三蔵(市川雷蔵)との出会い、そして人となりを語る場面から物語が始まります。
とにかくこの主人公伊三蔵がかっこいい。ニヒルで少々のことに動じず、強い。このアンチヒーロー像がなんともこの映画の魅力です。しかも渡世人のしきたりや礼儀などが正確に紹介されながらストーリーが進む流れは又絶品。そしてもちろん、画面が非常に美しく、横長の構図に配置される景色、水車小屋などのセットの配置などが主人公たちと溶け合って素晴らしい絵を作り出しているのです。

孫八の語りが所々に入れながら、生粋の渡世人の立て板に水を流すがごとき礼儀正しさや生き様が本当に心地よいのです。そして一方で主人公伊三蔵の過去に残した遺恨がなんとも物悲しく、それが次第に物語の本筋に頭を持ち上げてきて、クライマックスへなだれ込むストーリー展開の見事さにうなってしまいます。

ラスト、待ち伏せされた伊三蔵が彼を宿敵とする平沢清市郎(小池朝雄)と対峙した途端に降り始める粉雪が、まさに歌舞伎の世界。思わずぞくっとしてしまいました。

痛快というほかない娯楽作品ながら、渡世人のしきたりを律儀に踏襲した登場人物たちの姿がなんともすがすがしく、しかも意地汚い悪者はほとんど大きく描かれず、スパイス程度に挟み込まれるというなんともさりげない演出のうまさ。一級品の時代劇とはこうしたものかと思わず納得してしまいました。

股旅物などあまり好みではないと自覚していたものの、やはりいい映画はジャンルを問わないものだとあらためて納得した作品でした