くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「白い馬」「赤い風船」「ロフト.」

白い馬

「白い馬」
カンヌ映画祭グランプリに輝く名作、アルベール・ラモリスの作品をようやく見る機会があって見に行きました。
モノクロの画面に真っ白な馬が走る。湿地帯なのか、ところどころにわだちや川などが見られ、湿地帯特有の木々が茂っています。
その中を駆け抜ける野生の馬たち。そのリーダーである白い馬を通して、少年と馬、さらには利益のみを考えて馬を捕らえようとする馬飼いたちの物語が描かれます。

ほとんど台詞らしい台詞はなく、ナレーションを中心に物語が展開しますが、なんともそれぞれの画面が美しい。
しかも野生の馬が駆け抜ける水辺や林の中、潅木の茂みなどが躍動感満点のカメラワークで展開していきます。

ストーリーは野生の白い馬と少年の物語ですが、それを追う大人たちの執拗な執念が次第に悲劇を生むラストシーンへとつながる。
中篇というか短編に近い作品ながら、充実したカメラワークと動きのあるシーンの連続、そしてファンタジックな構図などどれをとってもまるで夢物語のようなロマンティックなムードがあります。

とはいえ全編散文詩のごときシーンの連続で、ちょっと陶酔感を味わってしまうことも確かですね。でもよかった。


もう一本が「赤い風船」
同じくアルベール・ラモリスの傑作で、映画史に残る名作です。
道端で該当にからむ真っ赤な風船を一人の少年が拾うところから物語が始まりますが、まるでその風船が生きているかのように少年にまとわりついてくる。

石畳と色あせたレンガ造りの町並みを背景に真っ赤な丸い風船がふわふわと舞う様子はまるでメルヘンの如しです。
学校への行き帰りを中心にこの少年と風船のまるで心が通っているかのようなストーリーが繰り返され、時として大人たちに捕まえられそうになったり、犬にほえられたりとほほえましいシーンも展開します。

やがて、悪ガキたちによって風船が捕らえられ、それを取り戻そうとあがく中で、風船は豆鉄砲にあたってしぼんでしまうのですが、なんとその後、町中の風船が集まってきて少年を捉え空高く舞い上がらせるラストシーンはなんとも心に残る名シーンでしょう。

子供時代に見た夢を再現したようなファンタジーの世界に誰もが酔ってしまう傑作といえますね。
もちろんこの作品もほとんどせりふは登場しませんが、さらにナレーションもそれほど挿入されません。まるで風船が言葉をささやいているような錯覚にさえとらわれてしまう映像に心を奪われてしまいます。
映画史に燦然と輝くといわれる名作中の名作と呼ばれるゆえんでしょうね。

そうそう、映画の中のワンシーンにパンさんが出てくるのですが、これが宮崎駿の「魔女の宅急便」に登場するパン屋さんと背景や店の様子がそっくりでした。それと全体の町の景色もどこか「魔女の宅急便」に瓜二つだったように思います。この映画を意識したのでしょうね。


さて、三本目は大阪ヨーロッパ映画祭のオープニングを飾った話題のベルギー映画「ロフト.」
非常に質の高い一級品のサスペンスミステリーです。
二転三転するストーリーの面白さはもちろん、大胆かつスケールの大きなカメラアングルとカメラワーク、さらに複雑な人間関係と登場人物を繰り返しさりげない台詞で紹介して混乱させない脚本のうまさ。その上、時間と空間を巧み前後させながら組み立てていく巧妙なストーリー展開。謎画謎を呼んで、ミステリーの罠にはまってしまう不思議な傑作に出会いました。

冒頭、いきなり三角形のモダンな建物の屋上から人が落下します。そしてそれを見下ろして一人の人間が建物の中へ。
場面は変わってその部屋の建物の一室。全裸の女性が血まみれでベッドにうつぶせになっている。そこへ入ってくる一人の男、そして、驚いた男は友人を呼びさらに又友人を呼んで主要人物4人の男がその部屋に集まります。

この四人を通じて、この四人の妻、妹、さらには愛人が絡んでくるのですが、それだけ複雑な人物設定を施しながら、混乱させないのは、前述したように見事な脚本というほかありません。
そして、この四人の物語の発端と警察署での取り調べシーンも加わり、ストーリーは徐々に一本の糸になってかたられていきます。
しかし、一本になってきたかのように思ったところでもう一度絡み始め、再び整理されていくというプロットの積み重ねは、うならざるをえないですね。

これでもかこれでもかと伏線を張りながらミステリーが深まっていく、しかもカメラワークが見事で、斜に構えた画面から、大きく開店させる大胆な展開、さらにシャープな三角形の建物を効果的に利用し、さらに内部のデザインを有効に物語りに生かした演出も見事です。
これでもかこれでもかと奥へ奥へ沈み込ませる謎解きの妙味がこの作品を完成度の高さを証明しているようですね。

最後のどんでん返しがどんでん返しというより、綿密に計算された結果によるエンディングと言わしめるところがなんとも見事です。できればもう一度見に行きたいですね。
実は何十年ぶりかで映写事故があったんですよ。さすがホクテンザです。