くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ラブリーボーン」

ラブリーボーン

この映画、ファンタジーでもサスペンスでもない。ひとつの家族の映画である。
冒頭、三人兄弟の末の弟が枝をのどに詰まらせて、死にかける場面、長女スージー・サーモン(演じるシアーシャ・ローナンが本当に愛くるしくてかわいい)が、車を見よう見真似で運転し病院へ連れて行き一命を取り留める場面がある。その背後に「人はみな自分たちの家族に悲劇など起こらないもの、すべてはうまくいくものと思っている」という意味のナレーションが流れる。そう、誰もが自分に限ってテレビや新聞でおこっている悲劇や事件はおこらないと信じているのである。

この導入部に、ピーター・ジャクソン監督がこの作品で描きたかったことのすべてが含まれているように思います。

この導入部に続いて、物語のきっかけになる主人公スージー・サーモンが殺人鬼に殺される場面に続きますが、この殺人シーンが非常に美しく優れています。地面に作られた穴の部屋から逃げ出そうともがくスージー、次の瞬間、霧の中を走り抜けていくスージー(すでに死んでいます)、初恋の相手にもらったメモが舞い、少し霊感のあるルース(キャロリン・ダンド)とすれ違う。一気に本編に引き込む見事な場面である。

ここから主人公スージーが天国と現世の中間の場所でさまざまな不可思議な風景の中、自分の死で崩れていく家族を見つめる。
時の流れを景色や音、登場人物たちの姿の微妙な変化で描いていくくだりは見事。

普通の物語なら、死んだ後、犯人を探すミステリー色が強く前面に出てくるが、この映画はひたすら家族の姿を中心に展開していきます。その合間に挿入される近所に住む犯人ミスター・ハーヴィー(スタンリー・トゥッチ)の不気味な姿がストーリーのスパイスになります。

2年がたち、さらにいくばくかの年月が流れ、初恋の彼はルースと親しく交際し、妹のリンジー・サーモン(ローズ・マカイヴァー)もスージーが死んだ年齢を過ぎて恋を知る。つかれきった母は家を出て行く。

しかし、時として感情的になるスージーの意識は父親に伝わり、父親に衝動的な行動を取らせると共に、スージーの心も徐々に落ち着く。一方で妹リンジーが真犯人二機がつき始め、ここから落ち着いてくるスージーの物語の一方で緊迫感のあるリンジーの物語が頭をもたげてきて、クライマックスへ進んでいく。この組み立てのうまいこと。

全体が平坦な散文詩のごとき美しいリズムを奏でているにもかかわらず、不気味な殺人鬼の存在が不思議なアンバランスを生み出す。

リンジーが真犯人の家に忍び込み隠してあったスケッチを見つけるくだり、音を効果的に使ったサスペンスも見事です。このへん、どこか製作総指揮に参加しているスティーブン・スピルバーグの知恵が入った気がしなくもないですが。

そしてエンディング、通常の作品のごとく、証拠があがったけれども真犯人が捕まってハッピーエンドではない。最後の最後スージーが天国へ旅立つ前にし残したことは初恋のレイ(リース・リッチー)とのキスだった。このあたり本当に美しい。もちろん、犯人には当然のような結末も描かれるものの、この映画が、ひとつの家族の物語であることを印象付けるエンディングなのである。

いい映画でした。本当にこの手のファンタジックなラブストーリーを作らせると「ロード・オブ・ザ・リング」「キング・コング」同様、ピーター・ジャクソンはうまいですね。
しかし、何でこの監督、こうも長い映画を作るのでしょうか?この作品も二時間をはるかに超します。もちろん長いから散漫になっているわけではないのは見事ですが、この長さが必要かと思えなくもない。