くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「人間失格」

人間失格

名作「ツィゴイネルワイゼン」や「陽炎座」の製作者で「赤目四十八瀧心中未遂」の奇才荒戸源次郎監督作品である。
久しぶりに映像美で圧倒される日本映画を見た感がありました。

冒頭のレコードに針を落とす場面に始まって、美しい津軽の山々のシーン、トンネルの中でしたたる水を中原中也が口で受けるシーンとそれに続く線香花火に変わる幻想的な場面、雪の降りしきるシーンに真っ赤に映る木々のシーンなどまさにこれが映像美学でしょう。そしてこの映像美学が生み出す独特のストーリーのリズムが次々と変遷していく主人公葉蔵が関わる女性たちの物語を紡いでいきます。

幼い頃の誕生日の場面、馬車に揺られる場面、巨大なヒバの大木を見つめる場面、めくるめくような幻想の世界のごとく、太平洋戦争突入のラストシーンまでまるでオムニバスのような物語が続きます。
でてくる女優たちの豪華さとその個性的な描写でそれぞれが見事に主人公をおとしめていく。荒戸源次郎監督は主人公の父の姿をいっさい出さず、その背後にある巨大な富、そしてその富から逃れるように自堕落になっていく主人公のすさんでいく心を美しい映像で毒々しく飾りながら、この青春小説の傑作を映像化していきます。

こんなに美しいのに、こんなにも暗い、そしてこんなにも純粋な心なのに、こんなにも関わる人々がそれぞれに冷たい。暖かみが全く感じられないある意味傍観者のような視点がこの作品の奥の深さを倍増するようですね。

主人公を演じた生田斗真もなかなかいい味を出していますが、それ以上に森田剛演じる中原中也がそれほど登場場面がないにもかかわらずすばらしい。目の演技が抜群で、天才詩人ながらどこか影を隠す彼の姿を見事に演じていました。もちろん伊勢谷友介も見事、そして寺島しのぶ以下登場する女優への演技付けもなかなか徹底されていて、荒戸監督の演出手腕のすばらしさに感服します。

物語は単純ながら女性関係を繰り返して人生を悲嘆の中で生きる主人公の姿が見事に描かれていました。
ラストシーン、汽車の中でかつての関わった人たちが一同に集い、シュールなラストシーンを飾るのは秀逸。いい映画に出会いました、