くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「イエローキッド」「メーヌ・オセアン」

イエローキッド

東京藝術大学の大学院卒業制作作品としての劇場映画である。監督は中、短編時代からその才能を期待されている真利子哲也という人。もちろん劇場初作品。
新聞やメディアで絶賛されているということで見にいってきました。

ボクサージムに通う主人公と「イエローキッド」という漫画を書いている漫画家服部を中心に彼らを取り巻く友人、恋人の姿を描いていきます。
バイタリティあふれる映像表現はさすがに抜き身の刀のごとくぎらぎらした迫力に満ちています。

ボクシングを喧嘩の道具として習っている不良青年、その彼とつるんでつまらないかつ上げ行為を繰り返している主人公たち。非常に内にこもった現代の青年たちのあがく姿がリアリティあふれるカメラワークと力強い演出で映し出されるのですが、なんともいえないほど陰気ですね。

しかし、作品も終盤になって主人公田村がボクシングジムの友人に生活費を強奪されてから一気に切れてしまって、引ったくりをした挙句がむしゃらに走り回りボクシングジムの先輩三国の家に行って三国をめちゃくちゃに殴るまでの映像展開は目を奪われるほどスピーディかつ圧倒されます。このラストシーンを見ただけでこの映画を見た甲斐があったといえるかもしれません。

一見、陰湿な作品ながらどこか可能性を感じさせる一本として、見ておいて納得の作品だろうと思います。


もう一本はしごしたのは「メーヌ・オセアン」。企画「ジャック・ロジエのヴァカンス」の一本。
今回も取り立てるストーリーがあるわけではない。
ブラジル人ダンサーデジャニラが荷物を持って走っているタイトルバックに始まる。ジャック・ロシエお得意のポップな音楽が被さる。
そして乗り込んだ列車はメーヌ・オセアン号。そこで切符の手続きの不手際から二人の車掌と言い争いになり、そこへ助け船で現れた女弁護士との関わりから一人の中年の船員と親しくなり、彼の住む島へ出かける。そこで再び車掌たちと会い、例によってとりとめのないヴァカンスのひとときの物語が始まる。

今回の企画で見た作品の中でもっともコミカルな展開が続く一本で、時として笑ってしまうコメディシーンも所々に挿入されているが、みているうちに、「人間って楽しいなぁ、人生って楽しいなぁ」と人間賛歌が聞こえてくるような明るさがあります。

出会う人それぞれがとっても心が温かく、しかも誰彼ともみんな心優しく親切。そこには薄汚れた都会のぎくしゃくした駆け引きもなく、小さな欲得さえもない。素朴な中に素直な感情をそれこそ表裏なく言葉にしてしまう。そんな人たちの中で過ごした主人公たちにもどこにも汚れは見えない。今を一生懸命生き、そして、ヴァカンスにきて思い切り遊ぶ。そんな人生賛歌が画面いっぱいから聞こえてくるのです。

例によって、即興演出が施されているため、ストーリーの脈絡がとんでもなくどんどん進んでいきますが、それでも素直に2時間楽しめるおもしろさはこの監督の個性なのかもしれません。
とはいえ、今回の企画ではやはり最初にみた「アデュー・フィリピーヌ」が一番よかったです。